『ハムレット』とはいかなる物語か?
こんにちは、Qui-Taです。さて、不景気ですね。倒産ですね。失業ならびに就職難ですね。てなわけで、今回は悩める青年の物語です。あれこれ構想を練っているうちに、この「悩める青年」の心象に合ったサブストーリーが欲しくなりました。その条件は、
[1] もちろん、「悩める青年」であること
[2] 主人公の心象によく合うけれども、一定のズレがあること。つまり、「あてはまる」というより、「接点をもつ」ような物語であること
[3] みんながよく知っていて、パロディにしやすい既製の作品であること
でした。となれば、W.シェークスピアの「ハムレット」しかないではありませんか。茶坊主とメアリーがうわさ好きの代名詞であるように、ハムレットこそ、悩める青年の代表です。「ハムレット」といえば「悩める青年」、「悩める青年」といえば「ハムレット」!
ところが、本番を2週間前に控えたある日、当劇団の制作担当から1本の電話がかかってきました(ひょっとすると、彼女は3週間前からかけ続けていたのかもしれませんが、私の電話が「お客様の都合により」つながらなくなっていたのです)。
制作 もしもし?
脚本家 おう、久しぶり。
制作 いたねぇ。
脚本家 どうした?
制作 料金、払いなよ。
脚本家 何か用?
制作 自動引き落としにすればいいじゃん。
脚本家 あのさぁ。
制作 もしくは、練習に顔を出すとか。
脚本家 だから、用件を言えよ!
制作 それから、ノルマも払ってよね。
脚本家 ・・・
というわけで、「ハムレット」を知らないお客さんのために、内容紹介文を書くことになったのです。うまく説明できるかどうか、自信がありませんが、しばしの間おつきあいを・・・ちょっと待て!「[3] みんながよく知っている」から「ハムレット」にしたんじゃないか。作品の前提を根底からくつがえすようなことを言うな!
制作 でも、知らない人の方が多いよ。
そういえば、脚本が上がらずに苦しまぎれのプレゼンをしたときも、
役者1 知らない。
役者2 なんとなく。
役者3 尼寺へ行く話でしょ。
役者4 おお、ハムレット! あなたはとってもハムレット(はあと)
役者5 ああ、あれね。
うちの役者がものを知らないのか、脚本の遅れに対するいやがらせなのか、その場では判断できませんでした。
というわけで、長〜い前振りとなりましたが、簡単に「ハムレット」の内容をご紹介致しましょう。
◆ ◆ ◆
遠い昔の物語、舞台はデンマークです。デンマークというと、風車やチューリップを連想される方もいらっしゃるでしょうが、それはオランダの間違いです。「岐阜県」と聞いて、「ああ、琵琶湖の!」と答える無知な関東人と同じです。
今でこそ、「酪農の盛んな北欧の国」というイメージの強いデンマークですが、その昔、ヨーロッパ各地に進出し、一大勢力を築いた時代もありました。西洋史で「ノルマン・コンケスト」という言葉を習った方もいらっしゃるでしょうが、イギリスも領土(一部)を支配されていた時期があったのです。この大国を築いた偉大なる王様が、ハムレットの父親(故ハムレット王)のモデルと言われています。つまり、ハムレットはその王様のドラ息子というわけです。
さて、物語はこの王様の死後から始まります。アテにしていた父親が急死し、大嫌いな叔父さんのクローディアスが国王となり、さらには喪中のはずの母親もあっさり叔父と再婚してしまいます。ハムレットとしては面白くないことばかり。悶々と暮らしていたある日、親友のホレイショーから聞かされたのは、父の亡霊が深夜の城内を徘徊しているとのうわさ。その夜、真偽を確かめようと見張りに立つハムレットの前に現れたのは、生前と寸分違わぬ父の亡霊。どういうわけかと話を聞いて二度ビックリ。何と、父の死は叔父クローディアスによる毒殺!? 復讐を誓うハムレット。この日からハムレットの苦悩が始まります。悲しみのあまり気が変になったフリをしながら、復讐の機会を待ちます。そんなフリをする必要があるのかなんて、気にしてられません。
これを見て本当に悲しんだのは、恋人であり宰相ポローニアスの娘でもある、美しきオフィーリア。「あなたはとってもハムレット(はあと)」なんて、言うわけねーだろ!
ところ変わってお隣ノルウェーでは、血気盛んな若きプリンス・フォーテンブラスが、先代の奪われた土地を取り返そうと密かに軍勢を集めます。この計画は未遂に終わるものの、振り上げたコブシの下ろし先、あるいはカムフラージュかもしれませんが、デンマークを通ってポーランドに攻め入ります。偶然、その大軍に出会うハムレット。彼は苦しみます。見よ、あの若者を!これだけの大軍を率い、己の野望を果たさんとしているではないか!何たる大志、何たる行動力!それに引き替え自分は、父を殺され、母をたらし込まれ、それでも復讐できずにいる。何たる無気力、何たる怠惰!いったい、自分は何のためにあるのか、どうすべきなのか?
時は戻って数日前、事件の確証をつかむべく、ハムレットは一計を案じます。旅芸人の一座に故ハムレット王の暗殺シーンを演じさせ、叔父クローディアスの反応を探ろうというもの。現場を見たかのようなストーリーと役者たちの迫真の演技に動揺し、席を立つクローディアス。叔父の犯罪を確信したハムレットは、彼を叱るべく寝室に呼び付けた母に逆に詰め寄り、叔父とは二度とセックスしないよう忠告します。それだけならまだしも、乱れた母の襟元と不謹慎な想像で興奮気味のハムレット、カーテンの陰で聞き耳を立てていた茶坊主、じゃない、宰相ポローニアスを誤って殺してしまったから、さあ大変。父の訃報にオフィーリアは号泣し、その兄レイアーティーズも激怒、身の危険を感じたクローディアスによってハムレットはイギリス行きとなります。先のノルウェー軍とは、その途中で会います。
さて、悲しみは次から次へとやってくるもの。クローディアスの仕掛けたイギリスでの罠を逃れ、デンマークに戻ったハムレットを襲ったのは、愛するオフィーリアの死。怒りと悲しみに狂うレイアーティーズは、ハムレットにフェンシングの試合を申し出ます。実はこれ、クローディアス王の策略で、レイアーティーズには先止めのしていない剣を使わせ、さらに剣先には毒を塗っておきます。そうして、試合中の不慮の事故と見せかけ、ハムレットを殺害しようと目論んだのです。
さあ、いよいよクライマックス突入!丁々発止とやり合うこの芝居の見せ場。激しいバトルが繰り広げられます。ところが、もともと気のいいレイアーティーズ、後ろめたくてハムレットを刺せません。しかしクローディアスの檄が飛び、ついに・・・。そして、誰も彼もが死に、何もかもを失い、悲しみと感動のラストシーンを迎えるのでした。
◆ ◆ ◆
とまあ、かなり省略し、かつ一部脚色を加えておりますが、これだけ頭に入っていれば、本日のお芝居はご理解いただけると思います。ただし、本公演を御覧いただいても、「ハムレット」を(誤解することはあっても)理解したことにはなりませんので、ご注意下さい。
それでは、最後までごゆっくりとお楽しみ下さい。
2000年6月24日 Qui-Ta
(『独白王子』パンフレット掲載の文章の原文に一部加筆)
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