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お 願 い

近頃私も赤い薬を飲んでいるのだが、すこぶる調子がよい。
日曜の朝などは、雨の中をゆがんで走る姿がまぶしいと
近所でも評判である。
そんな私の日課は、ニュース23を虚心タンカイに観ることであるが、
芸人である私にとって未だに忘れられないのが、
あの「落語家居眠り事件」である。
ご存じの方も多いとは思うが、この場合、落語家は居眠りしていない。
居眠りしたのは客である。
私もかつて若かりしころは、よく居眠りしたものだが、
あれは良い。
何とも言えずにみやびである。
ことに居眠りをしながら落語を聞くなどというのは、
最もまろやかなものの一つであろう。
私などは、最近そのようなぜいたくを思う存分味わうことも出来ず、
あの頃もっとやっておけばとホゾを噛む毎日である。
ああうらやましい。ああねたましい。
さてこの事件。
何でも聞くところによると、
客があられもない姿でこのような享楽にふけっていたところ、
落語家も我を忘れて欲情してしまったとか。
いかにも下世話な話であるが、
ニュース23がじゃーなるすれば、否が応でも多事争論である。
T紫T也氏の絶賛により、
「このような破廉恥な行為を聴衆の面前で堂々とやれるあたり、
さすが芸人、さすが大物落語家!」と、
くだんの落語家の株は上がるばかりである。
ああうらやましい。ああねたましい。
そこでお願い。
ゆがんだ世の中に一服の清涼剤とも言うべきこの事件と同様、
東京あたふたの『赤い薬』もニュース23で多事争論して欲しい。
きたれTBS!きたれT紫T也!!
今日も眠れぬ夜が続くのである。

1999年3月忙日 演出 羽田野真男 

(『赤い薬』チラシ掲載)

演出家たるもの・・・

最近青い薬を飲んでいるのだが、すこぶる勇ましい。
6月の日中の暑い盛りには、南を目指す私の姿を見て
「ヒョウが出た!!」と人々は大騒ぎ。
警察まで出動する事態に、私の妻などは
「あれは私の飼っているネコです。」と弁明に大わらわである。
また、つい先だってなどは、私の友人のI君(演劇関係者)が
麻布近辺で配達のバイトをしていたところ、
「都心に猿が出た!!」とマスコミが大騒ぎ。
「どうやらけがをしているらしい」などという
まことしやかなデマまで流れる始末。
全く演劇関係者を見る世間の目とはかようなものかと
痛感させられた一カ月であった。

             1999年6月忙日 演出 羽田野真男 

(『赤い薬』パンフレット掲載)

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