2、CSR/SRIとフェアトレード 前回の本欄で「CSR/SRI(企業の社会的責任/社会責任投資)」について書いた。もう一度おさらいすると、企業はこれまで「経済的」(財務・収益)配慮だけをして経営していればいいのだと考えられてきた。このため、これまでの企業の社会貢献論は、企業が上げた収益を社会にも還元すべきだという再配分論であった。
しかし、CSRとは、企業は経営の全プロセスに「経済的配慮」のみならず、「環境的配慮」及び「社会的配慮」の3点を取り入れた経営をおこなうべきとする新しい「企業システムモデル」だ。そしてSRIとは、経済・環境・社会のトータルな観点から企業を評価して投資する新しい「投資ビジネスモデル」なのだ。
企業は社会とかかわらねば企業競争力を喪失していくという、企業の経済活動/経営活動の仕方(プロセス)そのものの変革を問いかけているのだ。企業の財務状況だけでなく、環境や社会とのつながり方が企業価値とつながっているという時代になったということである。この点で、80年代に日本に導入された企業の社会貢献論には構造的な変化が起こっているのだ。
CSRは、90年代にNGO(非政府組織)・NPO(非営利組織)が企業との協働関係を模索する運動と活動を通じて形成されてきたものであることを前回書いたが、この点の認識が日本ではほとんどなく、かつ紹介されていないことを強く懸念している。CSR/SRIを推進する機関、評価する国際的な機関として紹介される、EIRIS、エティベル、SiRiグループ、GRI等々の団体は、そのほとんどがNGOであり、あるいはNGO関係者が入って運営されているものばかりなのだ。
日本企業にとって、「環境」的側面は既に取り組んできた経験があり、国際標準化機構のISO14001(環境マネジメント規格)を競って導入してきた。日本企業にとってよく分からないのが「社会」的側面だ。企業は最近世界のCSR評価機関から、人権、児童労働、開発協力などの社会的側面にどのように取り組んでいるかといった調査票をうけとって困惑し、コンサルにかけこんでいるのが実情だ。
CSRの評価は、各設定項目ごとに「企業とNGO(NPO)との協働関係」によって取り組んでいると高い評価を得ることができるようになっている。そこで、「社会」のポイントを高くするための取組みとして、フェアトレードが注目されてきているのだ。
フェアトレードは世界の仕組みがある程度出来上がっているので、企業にとって非常に参入しやすいからである。
その世界の仕組みの一つが、フェアトレード・ラベル制度(FLO)だ。企業はフェアトレード・コーヒー(あるいは紅茶など)を扱いたい場合には、FLOに参加し、FLOが認証したコーヒー豆を買いつけ、ラベルを取得すれば簡単にフェアトレード・ビジネスに参入できるからだ。クラフト(雑貨)類も、NGOが苦労して開発してきた商品を、当該NGOから仕入れて、自分の店で売れば立派な「社会」問題への協働関係を構築したことになりえる。
ちなみに、FLOジャパンのホームページにはコーヒは9社、紅茶は2社がフェアトレード・ラベルを取得して販売しているとして掲示されている。スターバックス・コーヒー・ジャパン(株)、小川珈琲(株)、共和食品(株)、(株)ユニカフェなどの焙煎メーカーがほとんどだ。しかし、日本ではフェアトレード・ラベルを付けて売られている商品はまだ非常に少ないのだが、最近はFLOジャパンへの問い合わせが増えてきいるということだ。
前述のように、昨年頃から、スーパーマーケットのイオン(ジャスコ)はユニカフェのフェアトレード・コーヒーを店頭の棚におくようになったし、東急ハンズがNGOのネパリ・バザーロがネパールのNGOと連携して展開してきたフェアトレード商品の中のカレーを扱うようになった。
フェアトレードへの取組みは、CSR的には当該企業は開発協力という社会問題にNGOと協働して実施していること示すものであり、質問票にはそのように書けば、その項目では高い評価が得られることになる。このため、今後、企業によるフェアトレード・コーヒーなどへの参入が急増してくる可能性もありうると考えられる。これはいいことだが、急増だと現地生産者に将来問題を起こしかねないことにもなる。ブームで生産を増やし、急にブームが終わって過剰生産となり、現地の農家に甚大な打撃を与えるケースは、ナタデノコなど後を経たない。
企業がフェアトレードに参入することは基本的にはいいことだが、NGOの姿勢を尊重し、NGOの考え方にしたがった取引を行ってもうら必要がある。
ところで、公共広告機構にフェアトレードの広告を取り上げてもらうべく、署名運動を行っている。 |