Vol.54 2009年1月25日号

NPO公共哲学研究会  
  公益法人制度の問題点、課題と今後

船戸 潔(特定非営利活動法人気NPO研修・情報センター理事) 

 2007年8月に結成された「公共哲学研究会」では、昨年12月から始まった「公益法人制度改革」について、その制度の問題点や課題、さらに今後の対応などを検討するため研究会を開催した。その概要は下記の通りである。

T 開催趣旨(世古一穂TRC代表理事) 

 12月1日からスタートする「公益法人改革」の問題点を議論し、市民オンブズマンの立ち上げ準備を行ないたい旨問題提起があった。

 従来、民法34条の法人は認可とか許可という形で、主務官庁が裁量により判断するということになっていた。今回の改革は確かに、市民社会形成にとってのひとつの成果とはいえるが、よく読んでみると中身に問題がある。この研究会の「市民社会を構築していく」という視点から見ると、市民主権を侵すような悪法ではないか、この法律改正で、本当に市民社会が良くなるのか。 認定基準などの面で、いろいろな批判や議論が起きてはいるが、この公益法人認定制度の本当の意味を問うような議論が起きていないのであえて問題を提起し、さらに今後どう行動するかということに関して提案を行ないたい。

U 領域主権論について(稲垣氏講演)

 実践的な法人改革の問題に関して、哲学的な視点から迫り、領域主権論のアウトラインについて概略を説明する。そのためのフレームワークができればよいと考えている。 

 主権論は16世紀のヨーロッパで出され、 アルトジウスの領域主権論は、いわばトップダウンの主権論への反論として、現代で言えば市民の側からのボトムアップとして主張された。生活領域を立ち上げていくときの正当性、これを私は領域主権論というのだが、  ホッブズやロックを経て国民主権論を主張したルソーは、人民がボトムアップでつくるものだという発想を出した。日本国憲法にもしっかりとこの考え方は入っているのだが、さまざまな権力構造の網の目を許してしまっていると思う。このような流れを念頭に話を進めていく。今日の状況で、様々な生活上のニーズから立ち上がるNPOにこそ領域主権という言葉を適用すべきであると考えている。NPOの現場では人権や権利よりも、生活上のニーズが優先する。大きい領域が小さい領域を状況に応じて支援することを補完性と呼ぶ。補完性は連帯の様態でもあり、自立性と連帯性というある意味で相反する概念が、複雑にガバナンスを要求している緊張関係が補完性の原理である。日本における公報と私法という分類の中ではこの概念がまだ使用されていない。

 国家に対して市民社会を対峙・区別させる必要があり、市民社会に領域主権を付与したい。市民社会は、非市場的な市民の対話的社会である。そういっても、1億2千万人が議論するわけには行かないので、代表民主主義の制度を取っている。憲法前文の「信託」が重要であり、この意味を明らかにする必要がある。信託法では3者を予定しているが、憲法では、国民と代表者の2者しか読み取れない。ロックの統治論の説明では、社会契約論により、国民とその代表者による権力により、王権を削いでいく考え方を示した。ここには3者関係が明瞭であり、国民と代表者と神となっている。明治の自由人権論者は天賦人権論に基づき、民主主義的な国体を考えていたが、次第に中央集権的な天皇に置き換えられていった。こう考えてくると天賦人権論的な考え方は、重要なものであったといえる。そうでないと皇祖皇宗論が復活してしまう。

 要約すれば、代表民主主義がうまくいかない場合は、市民社会は直接に、「熟議」民主主義によって、熟慮と討議によって意見形成する制度が求められる。創発民主主義とも言うことができる。社会的討議を重ねて、国会の場へ持っていくプロセスが大事である。最終的には統治とは、一人ひとりが声を上げていくことである。

V 公益法人改革 の基本的問題(世古一穂氏報告)  

 公益法人改革の基本的な問題点と市民社会の問題点を整理し、公益認定法の運用に向けて市民オンブズマンの創設を呼びかけた。

 (詳細は別稿参照)

W 公益法人改革について(富永氏講演)

 東京都の公益法人に関する独自認定方式についてその考え方を説明する。本日の資料は、各地のNPOなど話をするときの資料である。今回の改革について、市民活動の発展という視点から捉えることには全く同感である。今回の改正が、NPO法人と関係があるという捉え方と、全く関係のない制度であるという2つの考え方がある。特定活動NPO法人には税制上の優遇がほとんどない現状である。優遇のある認定NPO法人は89法人と数少なく、壁は高い。日本ではNPOが発展していくための制度が不十分である。寄付優遇、 非課税が非常に重要な課題と考える。

 今回の改革では、本来事業が非課税となり、税優遇は良くなった。これを多くのNPOが仕えるよう間口を広げることが大事である。今回は、主務官庁性から脱却して出来たものとして「70点」は付けられるのではないか。一方で、市民活動促進法の範疇と別物だという議論もある。私は、税優遇と関係ないのであれば、公益認定など必要ないという立場である。国税であれば国の機関で統一的に、地方税であれば条例で寄付控除について、地方が認定すればよい。今回の矛盾の原点は、国税の免除システムなのに、地方に押し付けてしまった点である。また税を免除する権限を地方に譲り渡すという「革命的」なこと。東京都の認定では小さなNPOが足切されてしまう。この点は東京都の制度は悪いといえる。どこが悪いのかというと、行政とつながっているところが「公益」と認定されやすく、そこと競争関係にあるところはハードルが高くなる。裁量行政が復活する恐れがある。また、都と類似の事業をやっているところも、一分野一法人ということで権益を守っていたものを保護するものである。事業規模も、基礎自治体まで広げていなければならないとしているが、杉並50万人を対象とするNPOなんてありはしない。従来の縦割り行政を残したまま従来の公益法人乱立の世界へ戻れというようなもの。東京都の独自基準に比べれば、国の基準では小さい中でも出来るという副次的な効果はある。国税の問題なので、基準自体が、自治体で異なってはいけない。

 認定窓口の問題もある。地方では分散管理方式だから、課題ごとに窓口が変わりそれぞれの対応となってしまう。担当職員次第のところもあり、また職員の頭も切り替わらなければダム建設反対の団体は認定されないという「公益」判断が出てきてしまう。

 2つの「予言シナリオ」が考えられる。ひとつは、市民団体が、税制優遇を受けて当然であるという姿勢で、この制度を積極的に活用してしまう方向。もうひとつは市民団体の活動理念とは違うとして、どの団体もこの制度を使わないと、制度としても使えないものになる。公益は何かを法に規定することはとても困難である。しかし、実はNPO法ではすでにそのことを規定していた。

 政府の考える公益は一様であるが、民間公益の世界は多様性を持つ。私は、市民の側がこの制度を使いこなせば、「使える道具」となるのではないかと評価している。この法律を作るにあたって行革推進本部がクローズで整備した。現場の法人の意見を聞かないから非現実的なものになった。収支問題はその典型である。そのために施行規則の段階で抜け道を作った。国の公益審査委員会は「暖かく審査する」といっているので信じていいのではないか。地方の審査会がどうかは問題である。この制度を評価するのは、多様性型で税優遇の間口を広くした点である。森をまず見て、木の部分に言及すべきであると考えている。納税者の金が団体に回るという視点から、公平性や正義にかなっているかどうか、オープン・トゥ・ザ・パブリックで考えるべきである。

X 全体のコメント(東京自治研究センター 伊藤久雄氏)

 私の属する東京自治研究センターでもどうするか議論がある。主務官庁は東京都であるが、年度に2回理事会等を開催している。3年に1回程度の事業監査がある。ただ利益を上げていない団体なので、一般社団になってもたいしたことがない。自由に活動するなら一般社団がよいのか。公益社団のほうが社会的通りがよいという程度である。公益社団へ進めるという準備を行なっており、早ければ来年の5月に認定されることになろう。会員は労働組合であり、自治体出資法人が公益法人になるとどうなるのか。

 当初この制度が出されたときはNPO法人も含めての議論だったと認識している。行政改革の流れで、行政委託型法人に対する批判を減らしていこうというねらいがあった。もうひとつは税制改革の狙いであった。

 今回の改革について、公益法人にかかわっている人々は自分のところをどうするかであり全体の視点はなかった。 また、現場のNPO法人側も関心を持たなかった。協同組合も、自分たちの活動には熱心でも関心を持たなかった。

 市民社会における領域主権をどのようにしたら拡大できるのかということがポイントである。寄付税制への関心と、自らの資金を集める仕組みに関心を持っている。私の立場では今回の制度を否定的に捉えている。一斉に移行するものとは考えていない。みな様子見ではないか。関連する法律は3つあるが、認定法はわかりにくい。ガイドラインなどを見ても分からない、このような法律の作り方に問題があるのではないかと考える。理想通りにはならないが、関心を持っている人が読んでも分からないのはいかがなものか。12月に一斉に出るものではないが、来春には出てきて、判断が重なってくるものかと思う。認定を得られなくても再度挑戦できる。まずおそれずに出してみて判断を受けていこうと説明している。 

Y 質疑応答 

: 公益認定委員会では、恣意的な認定がでないか。体制批判的な団体に、不利な認定がでないか。その意味で、一般財団とNPOの統合論は難しいのではないか。

富永 @自治体の認定実務について、内閣府の委員会はリベラルな構成である。行政処分なので、裁判になるため、不認定には相当の覚悟がいる。ただ、都道府県レベルでわかっているかは問題。NPOが監視していると捉えており、恣意的になる心配は少ないのではないか。地域のオンブズマン組織が働き掛けていくことができれば大丈夫なのではないか。 A 統合なのか併存論なのか。統合が筋だと思うが、併存させることで両方を底上げする 考え方を採るべきだ。

世古 NPO法でも同じ議論があった。NPO法を民法の特別法としたところで矛盾が起きた。本来は、民法を改正して市民法益を認めたうえで作るべきだと考えていた。そのとき、民法改正は置いておいて、特別法でやってしまったために起こった混乱である。 

: 公と公共を分離せず、本来、公と公共は一致するものと一般的には捉えられているのではないか。

稲垣 何度議論しても難しい。歴史を見れば「公」は天皇を指すのはぬぐえない事実。新しいく、「公共」を作っていかなければならない。その意味での「戦略」にすぎないとも言える。市民社会をつくる中で、戦略的に2つを分けて運動を進めていくしかないのではないか。  

世古 市民社会を確立するため、また価値観を転換するための運動論として、この公共の議論を進めていく必要がある、 今後の動きをしっかりウオッチングしていくために、市民オンブズマンを立ち上げていく必要がある。

公益法人改革の問題点と市民社会の課題

世古一穂(金沢大学大学院教授、(特非)NPO研修・情報センター代表理事
NPO公共哲学研究会共同代表)

 今回の公益法人改革に関してNPO公共哲学研究会では、12月1日の公益法人改革3法の施行の前、11月29日に研究会を開き 「公益法人改革の問題点と市民社会の課題」をテーマに議論した。
 研究会の概要は船戸さんのレポートを参照していただきたい。
 同研究会で筆者は下記のように課題を整理し、市民オンブズマン設立の提案をおこなった。

キーワード  公益法人改革、公益認定法の問題点、かくれみのとなる第三者委員会、
        市民オンブズマンの設立の呼びかけ

 今回の公益法人改革の<問題>として

 @公益認定法ではなく「非営利法人法」にしなかったのか。

 A国や行政の干渉なく、自律的な団体活動が可能か?

 B非営利の財団法人の設立も可能となったが、非営利の財団は、財産隠しに使われる恐れが大きい。

 C一般法人を使って、本来は非営利・公益活動を自由にすることができるはずだが、公益認定法が足かせになりはしないか。
  (例)反政府活動をするNGOは公益認定を受けられない可能性→
     アムネスティ・インターナショナル→アムネスティ日本支部

 D一般法人税は会社法の規定をベースに作られており、非営利法人の活動形態に対する理解が不十分

 E残余財産の帰属の仕方についての自由度が増したが、一般社団法人にあっては、定款で社員に残余財産の分配を受ける権利を与えることはできず(11条2項)
 財団法人では設立者に残余財産分配請求権を与えてはならない(153条3項)
 残余財産の帰属は定款の定めるところによる(239条1項)

 をあげた。

 その上で 
 市民社会にとっての問題点として

 @公益認定を行政の審議会がやるということは結局、行政が公益認定をすることになる。
 それが今回の大きなねらいではないか。
 反政府活動、行政に対抗するNGOの活動などは公益認定を受けられない可能性が高くなる。

 A制度の根本的問題点をマスコミも見抜いていない。
 制度そのもの、また、その制度運用についても市民の関心を惹起し、市民が監視する必要大。市民オンブズマンの創設が必要。

 B公益認定の審議会の事務局は結局官僚がやることになる。官僚には任せない審議会運用が必要。そもそも審議会の委員 の選考の方法が従事型である。
 委員の選考に市民参加、チェック機関が必要。→
 委員の選考についての条例を作るべきでは(自治体分について)
 ↓
 国向けの法律も必要。

 C公益法人に対しても市民の目での評価のシステムと情報開示の義務付け、市民からの要請で情報公開させるしくみづくり。

 D“効率的”な公益法人の事業運営というが、効率のモノサシは結局お金ではないか。
 本来、公益法人の評価の基準は公共性、公益の増進にあるはず。根本的認識がおかしい。

 E効率的な公益法人の事業運営というたてまえのもと、ガイドラインの基準が窮屈で自由な事業運営を阻害する結果となるの ではないのか。

 F地方の自主性の尊重は重要な理念ではあるが、現実には国のガイドラインにただ従うことの事実上の「強制」になる、地方分権の名目のもとに結局、国の力を強める結果になる恐れがある。
 ↓
 公益法人改革は、小泉改革のときの“官から民への流れ”の延長にある。民の中にNPOやNGOはほとんど含まれていなかったこと、結局市場化路線であったことが、今大きな格差問題を生んでいる。
 本来、公益法人改革によって市民社会が活性化すべきであるが、今回の“改革?”特に“公益認定法”は、市民社会を公にからめとろうとする動きともいえる。官から民へといいながら、民(=本来は市民社会)を官に吸収していく動きといえるのではないだろうか。

 と課題を整理した。

 今回の公益法人改革と公益認定法は市民社会という領域の主権をおかす改悪、悪法であると思う。

 当日筆者は、 公益法人改革及び公益認定法の運用に関する「市民オンブズマン」の創設を呼びかけた。
  
 賛同していただける方は 「市民オンブズマン」の創設準備会
 (呼びかけ人世古一穂 k-seko@xvh.biglobe.ne.jp)までメールで連絡をお願いします。  

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参考資料:東京新聞2008年12月3日 公益法人制度の課題など話し合う

       東京新聞2008年12月8日 メディア観望 公益法人とNPO

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