6.NGOの提案
―― グリーンピースの『エネルギー・レ [ エ ] ボリューション――持続可能な世界エネルギーアウトルンク』
地球温暖化への対応として、今国際的に注目されているのが、英国のニコスラ・スターンの報告書 『 The Economics of Climate Change 』 である。地球温暖化による経済的被害はこのままいけば世界のGDPの20%に及ぶだろう。それに対応するコストは世界のGDPの1%の 負担増で可能であると推計している。
また、NGOの主張として、 現在もっとも注目されるようになったのがグリーンピースの『エネルギー [ レ ] エボリューション』シナリオである。
地球環境問題について、NGOはいつも先端的に問題・課題を指摘し、いち早く取り組んできている。NGOはいつも地球の、そして人々の生活世界の最先端におり、活動している。政府・企業とも、NGOの活動を知ること、NGOと協働することが、ますます重要な意味をもつようになってきている。世界がNGOの提示する目標値に急速に近付いてきている。
グリーンピースは、ベトナム戦争当時の1971年、米国の核実験への抗議運動がきっかけで誕生した国際NGOである。問題が起こっている現場へ行き、現場の証人となり、同時に抗議の意を示す、当時としては驚くべきアイディアと行動である「非暴力直接行動」を理念として設立された。
以来、地球温暖化、酸性雨や有害物質、遺伝子組み換え、海洋生態系、森林、有害物質、核・原子力等々、地球規模の環境問題(グリーン)と平和問題(ピース)に取り組む、世界でも代表的な環境保護団体のひとつとなっている ( 本部はオランダのアムステルダム ) 。
世界27カ国にグリーンピース団体が設立されており(グリーンピース・ジャパンは1989年に設立)、42カ国に事務所を置いている。世界の会員総数は250万人で、会員の会費のみで運営され、企業からの寄付や政府の補助金等は受けないことを理念としている(但し、企業支援は個別プロジェクトベースでは受けることがある)。
グリーンピース・インターナショナルは欧州自然エネルギー協議会 (EREC) と共に、2007年1月、『エネルギー [ レ ] エボルーション ―― 持続可能な世界エネルギーアウトルック』 (energy [r]evolution: A Sustainable World Energy Outlook) を発表した。「 [r]evolution 」とは、エネルギー革命とエネルギー進化をかけた言葉として使っている。
*グリーンピース・ジャパンのホームページから日本語版を入手可能。
グリーンピースの 『エネルギー [ レ ] エボルーション』 シナリオでは、2050年までに、一次エネルギー需要の50%を自然エネルギーによってまかなう。それによって、2050年までに世界の二酸化炭素総排出量を、1990年比で50%削減すると同時に、原子力発電の段階的廃止を行ない、 化石燃料消費の大幅削減も実現する。CO 2 を回収して地中や海洋に捨てる、いわゆる貯留も不要である。こうしたことを、エネルギーの安定供給と世界経済の着実な発展をともないながら可能であると、 というものである。
2050年までに、二酸化炭素の排出量を経済を圧迫することなく、今後43年以内に半減すること、そして自然エネルギーを大々的に導入することは、技術的に可能であることを明らかにしている。条件はそろっている。「欠けているのは、政策による支援だけだ」とグリーンピースは述べている。
この報告書の調査と分析にあたったのは、ドイツ航空宇宙センター (DLR) をはじめ各国の研究者、エンジニアなど約30名。このうち日本についての調査分析は、環境エネルギー政策研究所 (ISEP) が担当した。
本報告書の提案は、IPCCの第4次報告書の発表や地球温暖化の加速化の傾向が顕在化するに従い、ますます国際的に注目される提案となってきている。
OECD諸国の発電所の多くはこの10年程に寿命を迎え、建て替えが必要となる。もし石炭火力発電所を再び建設したら、それらは2050年までに二酸化炭素を排出し続けることになる。原子力も、世界の稼働中の原発の大半は、運転開始からすでに20年以上を経過し、老朽化が進んでいる。事故の発生率は高まる一方だ。原子力の寿命は設計上40年前後だが、電力事業者はこれを60年位にまで引き延ばそうとしている。世界は、「これから数年のうちに電力事業者が下す決定にかかっている」と指摘する。
グリーンピースの「エネルギー・シナリオ」の内容は次のようなものである。
京都議定書締約国は第二約束期間(2013〜2017年)における排出量は1990年比で18%の削減、また2018〜2022年までの第三約束期間においては30%の削減を、先進国に対し目標とするよう求める。2050年までには、OECD諸国は CO2 の排出量を80% 削減することは可能であるというシナオリである。
2050年には世界の最終エネルギー需要は47%減少させる。エネルギー効率のよい家電製品、冷暖房システム、コンピュータ、自動車などが市場を席巻するようになる。また、経済成長と化石燃料消費を切り離すことが必要である。1971年以降、世界のGDPが1%成長するにともない、一次エネルギー消費は0.6%増大している。従って、将来のエネルギー需要を削減するには、エネルギー需要の伸び率とGDP成長率の分離、いわゆる「デカップリング」が不可欠である。
自然エネルギーは2030年までに世界のエネルギー需要の最大35%を供給できるようになり、2050年までに50%を供給するようになる。風力発電機、太陽光発電、バイオマス発電、太陽熱温水システム、地熱、潮汐力、水力をはじめとする自然エネルギー技術の向上、成長と、エネルギー効率化技術とを組み合わせることによって、現在と同水準のエネルギー・サービスを提供しながら、エネルギー消費の大幅削減も可能になる。
エネルギーの生産・流通・消費のあり方を基本的に変えることが必要である。自然エネルギーの利用を、とくに「分散型エネルギーシステム」の拡大を通して増大させる。「分散型システム」とは、エネルギーの地産地消である。電力や熱は最終消費地近くで生産されるため、送電などにともなう損失が少なくてすむ。2050年には世界のエネルギーの大部分は分散型エネルギーで供給する。
自然エネルギーやコデェネレーション(熱電供給)と、エネルギーの効率利用を組み合わせることによって、グリーンピースの提案は達成可能である。小規模分散型の自然エネルギーとコジェネレーションによって、今後20年のうちに世界のエネルギー消費を横ばいにすることが可能であるとしている。
現在、世界では20億人が電気にアクセスできずにいる。分散型システムによればこれらの人々へ電気を提供することが可能となる。また、途上国は分散型自然エネルギーとエネルギー効率化技術を選択することで、経済成長を損なうことなく、十分なエネルギーを享受しながら、二酸化炭素の排出を実質的に抑えることができるだろう、とグリーンピースは2050年へのエネルギー・シナリオで明示している。 |