4.「キンバリー・プロセス認証制度」 (KPCS) へのプロセス
1990年代半ばから後半にかけて、シエラレオネ、リベリア、アンゴラ、コンゴでは、内戦が最も悲惨に展開されていた。この時期、「紛争ダイヤモンド」は世界のダイヤモンド貿易の 15% も占めていたと推測されている ( アムネスティ )
紛争地域で産出されたダイヤモンドが合法的なダイヤモンドのサプライチェーン ( 市場 ) に流入するのを防ぐことで、紛争を抑止する効果を生むことができる。このため、採掘から小売段階まで、輸送経路の各ポイントで監視するシステム ( システム・オブ・ワランティ ) を構築する動きが生まれ、 2003 年8月からは「キンバリー・プロセス認証制度」 (Kimberly Process Certification System) が実施されている。ここにいたる経過(プロセス)を辿っておこう。
1998 年、「グローバル・ウィットネス」が本格的な調査に乗り出した。先進国の人々に幸せを与えるダイヤモンドが、実は「血塗られた ( ブラッド ) ダイヤモンド」であることを告発し、そうした「紛争ダイヤモンド」の根絶を目標に掲げた活動を始めた。
翌 1999 年、「グローバル・ウィットネス」が中心となり、欧州の 4 つのNGOが協働して「フェイタル・トランザクション」と呼ばれるキャンペーンを開始した。「 10 億ドルのダイヤモンド取引がアフリカの紛争の資金源となるのを阻止するために」が、その理念である。パートナーとなったのは、ドイツの「メディコ・インターナショナル」、オランダの「オランダ南部アフリカ・インスティチュート」、同じくオランダの「ノビブ」である。ノビブはオランダが誇る開発協力NGOで、現在は「オックスファム・インターナショナル」のオランダでの受け皿となっている。その後、NGOとしては、「アムネスティ・インターナショナル」と「パートナーシップ・アフリカ・カナダ」が積極的にキャンペーンに参加していった。
こうしたNGOキャンペーンが効果を現して ( 『ブラッド・ダイヤモンド』には「グローバル・ウィットネスの告発もあり・・・」という台詞が出てくる ) 、翌 2000 年 5 月に南アフリカのキンバリーで紛争地のダイヤモンド問題を話し合うフォーラムが開催され、ダイヤモンド業界、各国政府、国連、NGOなどが参加した。映画の会議のシーンはこの時を表していると思われる。
筆者はこの年の2月に「グローバル・ウイットネス」を訪問したわけで、それは、ダイヤモンド業界が参加する最初の会議がキンバリーで開催される 3 カ月前にあたる。インタビューしたスタッフが興奮していたのも当然だったろうと後になって納得したのである。
さらに、 2000 年 7 月、国連 ( 安全保障理事会 ) は、シエラレオネからのダイヤモンド原石の輸入を禁止する措置を票決した。こうした動きを受けて、業界側である世界ダイヤモンド取引所連盟 (WFDB) と国際ダイヤモンド製造者協会 (IDMA) は、 2000 年 9 月にワールド・ダイヤモンド・カウンシル (WDC) を設立した。 WDC は業界の依頼を受けて、原石がどのようなルートで消費者のもとに届けられるか、貿易経路を追跡・監視するシステムを開発し、その実施も担うことになった。
2000 年 12 月には、国連総会で「紛争ダイヤモンド」に関する決議が可決され、グローバルな証明システムの導入を含む、ダイヤモンド取引における国際的な法制化への枠組が作られた。そして、 2001 年 2 月に 38 カ国の政府が会合し、ダイヤモンドの認証システムを検討していくことになった。これが「キンバリー・プロセス」と呼ばれるものである。
その後検討が重ねられ、 2002 年 11 月に「キンバリー・プロセス認証制度」が採択され、 37 カ国が調印を行なった。各国の国内法整備を進める必要があるため、実施は 2003 年 5 月 1 日と決定された。 ( 実際の実施は 03 年 8 月からとなった ) 。
「キンバリー・プロセス認証制度」とは、採掘から小売までを監視し、紛争地の産出でないことが証明されたもののみを、合法的なマーケットに乗せるシステムであり、具体的には次のような措置が義務づけられている。
まず、ダイヤモンドの原石が発見 (採掘) されると、政府のダイヤモンド事務所に持ち込まれる。政府当局はそれが紛争地の産出でないことをチェックの上、不正に開封できない容器に密封し、偽造できない政府認証のキンバリー・プロセス証明書を発行する。この証明書には通し番号がつけられている。こうした手続きを経たダイヤモンド原石のみが、輸出を許可される。
一方、ダイヤモンドの輸入には、キンバリー・プロセスに参加していることが条件となる。非参加国はダイヤモンドを輸入することができない。輸入国の税関では、所定の手続きに従って、証明書と容器が密封されているかどうかがチェックされ、その上で輸入が許可される。こうして輸入されたダイヤモンドが加工・研磨会社に引き取られていくことになるが、所有権が移転するたびに、それが紛争地で産出されたものでないことを保証する宣誓文を記載したインボイス (送り状) を添付する必要がある。保証宣誓文の有無は年次監査を受ける。
小売業者は販売するダイヤモンドにこの宣誓文があることを確認する義務を負う。但し、購入者に渡す領収書には、この証明 ( 宣誓文 ) は義務づけられていない。しかし、消費者は自分の購入するダイヤモンドが紛争と関係のないところから供給されたものであるかどうかの証明を小売店に求めることができる。こうした正規の手続きに従わなかった場合、荷物は没収、または受取り拒否がされ、法律違反として刑事制裁が課されうる形となっている。
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