2 コンパクトの内容
@ ナショナルコンパクト
1998年11月に公表されたイングランドのコンパクトは「 イングランドの政府とボランタリー・コミュニティセクターとの関係」 である。
まず、ブレア首相のメッセージが冒頭にあり、国を挙げての合意文書であることを示している。「 コンパクトは、すべて対等な関係を導く手助けのしくみを規定 」「 政府とセクターがその発展と公の政策やサービスの交付を互いに補足しあう関係 」「 政府は国民生活の全ての場においてボランタリー・コミュニティの活動を推し進める役割 」「 ボランタリー・コミュニティ組織は時代を作り出す 」と述べている。
つづいて、内務大臣と政府関係ワーキンググループ議長の共同メッセージが掲載されている。「 ボランタリー・コミュニティセクターは政府と市場と並列に働く『第三セクター』として社会の役割の中心を担っている」、「コンパクトはパートナーシップの発展の出発点であり価値を分け合い相互の敬意の基礎となる」、「すぐれた実践規範の開発や地方レベルでの採択を助成する」、「来年、1999年の年次総会の報告を期待する」と記されている。
(@) コンパクトの位置づけ
コンパクトはボランタリー・コミュニティセクターと政府の間の覚え書きである。それは、法的に拘束力のある文書ではないが、その権限は、政府とボランタリー・コミュニティセクターの協議過程を通して承認される。
適用範囲は 中央政府機関のみならず、地方の行政機関やエイジェンシーを含み、ボランタリー・コミュニティセクターの多様な組織にも適応される。
(A) 共通のビジョン
コンパクトはイングランドの政府とボランタリー・コミュニティセクターの間の関係を補強する重要な原理と事業を作り上げる。
ボランタリー・コミュニティ活動は、社会を含む民主主義の発展の根本である。
独立した、非営利組織のボランタリー・コミュニティグループは、社会に特有の価値観を持ち、ボランティア活動の機会を与えることによって、個々人が、公的な生活やコミュニティの発展に寄与する
ボランタリー・コミュニティ組織は、発言力をもたない人々を代行して主張する役割も有している。平等と多様性の両方を促進し、貧困を軽減し、生活の質を向上させ、社会的排除を包含していく。
ボランタリー・コミュニティ組織の活動の範囲と性格から、常に政府の法律の制定や規制で、強い影響を受けるが、コンパクトによってプラスの方向へ向かわせる。
(B) 共通の原則
・ ボランティア活動は、民主社会にとって本質的な構成要素である。
・ 自主的で多様なボランタリー・コミュニティセクターは、 社会の幸福の基本となる。
・ 公的な政策とサービスの発展と供給において、政府とボランタリー・コミュニ ティセクターは異なるものの補完しあう役割である。
・ 共通の目的、目標にむけパートナーシップで付加価値が生じる。 意義ある 協議 で関係を構築し、政策の発展を改善し、サービスと計画の企画と供給を高める。
・ 政府とボランタリー・コミュニティセクターは違った説明責任が求められ、異 なる領域の利害関係者に適切な対応をする。しかし、両者の共通点は、誠実さ、 客観性、説明責任、公開性、正直さ、リーダーシップの必要性である。
・ ボランタリー・コミュニティ組織は、その目的を進めるための法律の範囲内で キャンペーンをする権利を持っている。
・ 政府はボランタリー・コミュニティ組織の基金提供者として重要な役割がある。
・ 政府とボランタリー・コミュニティセクター双方は、すべての人々、人種、年 齢、障害の有無、ジェンダー、性的指向、信仰のいかんに関わらず機会の均等 を奨励する重要性を認識している。
(C) 政府の約束
〈独立性〉
法律の範囲内でキャンペーン活動をすること、政府の政策の批評する権利を含める。資金提供の有無に関わらず、その政策に異議を申し立てること、自らの問題として決意し経営することを支援。
〈資金提供〉
セクターとの協議において政府省庁の望ましい資金提供の「すぐれた実践規範」を作成すること。そこでは、明瞭で一貫した基準、活動目的の説明、評価の目的の透明性、長期の複数年次に及ぶ資金提供などを明記する。
〈政策形成と協議〉
政府は、セクターに新しい役割と責任を申し出る場合、その協議において返答の期間を認める。そのため、利用者、受益者そして利害関係者が協議する組織の必要性を考慮に入れる。このとき、女性、マイノリティグループそして社会的に排除された人々の固有の必要性、関心そして貢献を考慮する。情報の秘密性を尊重すること。これら協議、実施、政策評価において「すぐれた実践規範」を作成すること。
〈 より良い政府 〉
政府とセクターの間の一貫性のある対応とすぐれた実践のもとで関係性を促進する。特に問題が各部門に重なる場合、開かれた政治を促進する。セクターと共に毎年共同でコンパクトの効果を調査する。他の公的機関にコンパクトの採用を促していく。
(D) ボランタリー・コミュニティセクターの約束
〈資金提供とアカウンタビリティ〉
資金提供者と利用者に対して報告とアカウンタビリティの責務をもっている。法律のもとで、キャンペーンにはチャリティ委員会の適切な指導を受け入れる。
〈政策形成と協議〉
サービスの利用者、ボランティア、会員そして援助者に情報を正確に伝え、彼らの意見を聞き、協議する。もたらされた政府の情報の機密を保持する。
〈すぐれた実践〉
政府とその他の機関との効果的な関係づくりの促進。利用者が可能な限り、活動とサービスについての開発と経営に参加すること。政府と共同してコンパクトの実施を毎年調査すること。
(E) コミュニティグループと黒人と少数民族組織に関する問題
コミュニティグループと黒人と少数民族のボランタリー・コミュニティ組織に固有の必要性、利益そして貢献が得られる特別の考慮が必要である。
とりわけ、 多くの黒人と少数民族のボランタリー・コミュニティ組織は多様なグループやコミュニティを形成しているにもかかわらず、伝統的なボランタリー・コミュニティセクターの機構の外にあると感じられる。コンパクトはこれらの組織の援助や参加が、政府とボランタリー・コミュニティセクター双方の主要な課題であることを確実にする枠組みを定める。特に、資金は、黒人と少数民族の組織基盤を目標に定めるのに必要である。黒人と少数民族組織がパートナーシップのもとで協議や決定に直接参加する機会が確実になるために、政府とボランタリー・コミュニティセクターによって均等な歩調で成し遂げる必要がある。それは、彼らの組織の可能性を開発し現実化するのを助ける。これらの重大事は、黒人と少数民族のボランタリー・コミュニティ組織の特別な必要性と状況を反映させるすぐれた実践規範(BMEコードの作成)を通して取り組む必要がある。
(F) 意見の相違の解決
枠組みの妥当性の不一致は可能な限り関係者の間で解決されるべきであるが、両者が同意するための調停手続きと 行政監察官への不服申立制度が必要かについて検討をする。
(G) コンパクトの発展にむけて
コンパクトは出発点で終点ではない。政府とボランタリー・コミュニティセクターは共にその利用と有効性を計るように託されている。「すぐれた実践規範」として、ボランティア、コミュニティグループ、黒人と少数民族組織、資金提供、協議と政策評価のコード(規範)を作成する。政府とボランタリー・コミュニティセクターの代表者は年次総会をもち、その報告書を議会に提出する。コンパクトは地域の行政府を含む中央政府の各省庁やエイジェンシーに適応される。政府は他の公共機関に広げる、たとえば特殊法人に活発に促進される。そして、地方の政府においてもボランタリー・コミュニティセクターとコンパクトを採用し、広めていく。
附属文書
コンパクトの機動力となったのは、ディーキン委員会レポート「ボランタリーセクターの未来」と政府が野党の時代に発表された政策文書「共に未来を築く」に起因する。
内閣府の大臣を長とする内閣委員会は政府の中のコンパクトの実施を監視する。委員会には次の機関が代表を務める。内務省、文化メディアスポーツ省、教育雇用省、環境、運輸と地域行政省、保険省、社会保障省、スコットランド政府、ウェールズ政府、北アイルランド政府である。
政府関係者のボランタリー・コミュニティセクターのワーキンググループがセクターとイングランド政府との関係を向上する方法を考慮するために設置された。
ワーキンググループの目的はコンパクトの本質の細目を調査することにある。
協議文章は論評のために、すべてのボランタリー・コミュニティセクターに広く行き渡る。政府もまた各省庁にわたってコンパクト開発の協議を行き届かせる。
特定協議
コミュニティグループの数は、何10万にもおよぶ。組織はコミュニティの会員によって他の人たちへサービスを提示する。また、組織にはキャンペーン活動団体、セルフヘルプ、余暇活動や芸術グループが含まれる。コミュニティセクター連合はコミュニティグループの代表者やこれらのグループを展開する全国組織の中においても、それを広げていく時にその独立性、民主制と自由な社会はとりわけ重要であるという特定協議を行った。
また、特定協議の過程で、黒人のボランティア・コミュニティセクターの多様な組織が、様々なサービスとネットワークの援助をするグループであることが見いだされた。しかしながら、これらの組織はかれらが発展しようとするとき多くの障害に直面し、かれらの役割と発展の可能性の認識がないため、妨げられている。不適切な資金調達と認識は、他の組織がパートナーシップから黒人のボランティア・コミュニティ組織を締め出すことによって、いちじるしく影響をうけている。かれらの要望は、コードではなく、政府と黒人のボランティア・コミュニティ組織の別の形のコンパクトの作成であった。かれらは政府との協議の過程で完全な保証とコンパクトにおいて明確な必要性と境遇の責任をとることを熱望した。
A ローカルコンパクト
ナショナルコンパクトの成立後、コンパクトの理念をより実効性のあるものとするため、
2000年にローカルコンパクトガイドラインがNCVO(ボランタリー組織全国協議会)内のWGGRS(政府関連ワーキンググループ事務局)と地方自治協会によって示された。
ガイドラインによるとローカルコンパクトの目的は、地方政府とボランタリー・コミュニティセクターとの間のパートナーシップの進展によって関連する活動を改善していくことにある。ローカルコンパクトは、コミュニティへの貢献を高める ために、 独立した責任あるボランタリー・コミュニティセクターが自分たちの目的と法令によるパートナーの双方がうまく満たすことができるように、能力の開発を支援する方法を提供する。
ローカルコンパクトは内容もさることながらその策定プロセスが同じぐらい重要視されている。そのため、小規模で資金のないコミュニティグループも含めた幅広い層をボランタリー・コミュニティセクターに結集させていく必要がある。(付録7において特にBMEグループとの関係性の重要性が述べられている。)また、重要な地域の政策、ベストバリューやニューディール、地域における様々な戦略などとリンクさせ、議員を巻き込むこともいわれている。
内容は、共有原則、資金、協議、評価、モニタリング、総会、仲裁・調停などを地域の特質にあわせ盛り込むことが示されている。 |