Vol.43 2007年10月14日号

特別報告 イギリスのコンパクトと協働ガイドライン 第1回

                             細見義博 ( 尼崎市 )

 筆者は2006年9月18日から22日まで、 ロンドンの3自治区と3 ボランタリー ・コミュニティ セクターさらに大学( London School of Economics )で コンパクトの 現状の聞き取り調査を実施した。そこで、メールマガジンに2回のシリーズでコンパクトについての報告と日本の地方自治体の「協働」の一例をとりあげ検証をしていく。

章立ては次の通りである。

1 コンパクトの成立経過

2 コンパクトの内容

3 コンパクトの現状(以上今回)

4 尼崎市の 経営再建プログラムについて (次回)

5 尼崎市の協働ガイドラインについて

6 コンパクトからみた尼崎市の協働ガイドライン

1 コンパクトの成立過程

 イギリスは、60年代、「ゆりかごから墓場まで“ from the cradle to the grave ”」と形容される社会保障制度を中心とする福祉政策や石炭や鉄道、通信などの重要基幹産業の国営化という社会民主主義政策を推し進めてきた。しかし、70年代とりわけ73年のオイルショック以降、経済の長期不況、財政難と巨額の財政赤字を抱え、社会全体の活力が失われた。短期2期続いた労働党に変わり1979年から保守党政権で首相の座をしとめたのはサッチャーであった。彼女は「市場原理と小さな政府」を目標に大胆な行財政改革を実施した。国営企業の民営化推進、労働組合の弱体化、広域自治体の廃止、規制緩和による政府の役割縮小と民間活力の導入、行政のエイジェンシー化、民間部門主導による公共サービス提供などである。中でも1980年導入の強制競争入札CCT( Compulsory Competitive Tendering )によって、地方自治体の一部サービス(建設・道路工事、ごみ収集、清掃、給食など)が民間業者と競争入札を行い、敗れれば担当部門の廃止という厳しいものであった。根底に流れるのは、バリューフォーマネーVFM( Value for Money )であり、一定の支払いに対し最も価値の高いサービスを提供するという理念である。

 11年のサッチャー政権を受け継いだのは、保守党メジャーであった。7年の政権において市場メカニズムの理念を実際の制度に形作っていった。1991年に「市民憲章( Citizen's Charter )」を公表し、提供するサービスの水準や質を国民に数値で明示、その達成を市民に約束する。1992年にはプライベート・ファイナンス・イニシアティブPFI( Private Finance Initiative )と呼ばれる政策手法を実施した。公共サービスの提供に際してインフラや公共施設が必要な場合に、公共が直接施設を整備せずに、民間資金を利用して民間に施設整備と公共サービスの提供をゆだねる手法である。同年、市場化テスト( Market Testing )の本格的開始。それにより、エイジェンシー化がますます進行した。

 18年間の保守党政権は、1997年新労働党(ニューレイバー)の肩書で登場したブレアによって終焉を迎えた。ブレア政権は、ギデンズの思想を背景に「第三の道」 "The Third Way" を目指すものである。古い労働党でもなく、保守党でもない独自の第三の道を目指すものといっているが、多くの手法を保守政権から受け継ぐことになる。2000年に地方自治法改正による地方分権の推進による首長と内閣制の設置である。それにはスコットランド議会とウェールズ議会の創設や2000年大ロンドン庁の復活が象徴的である。

 強制競争入札CCTを廃止。変わりにベストバリュー Best Value の概念を導入する。強制競争入札CCTでは、効率性に重点をおかれ、その結果サービスの質がないがしろになり、住民の満足を得る水準に達していないという批判を考慮にいれたものである。

 また、ブレア政権はPFIをさらに推進し、公共セクターの役割を含めながら民間とのプロジェクトを進める公共・民間パートナーシップPPP( Public Private Partnership )を展開している。

 1996年に出された通称「 ディーキン報告書」では 「1980年代と1990年代に、サッチャーとメジャー政権は、中央政府の構造、慣習および価値の根本的な変更を加えた。これらの変更は、必然的に政府のボランタリーセクターとの関係に影響を及ぼした。1970年代には、政府省庁は、ボランティア組織と彼らの活動を尊重する傾向があった。1980年代になって、財務マネジメントイニシアチブの影響で、『バリューフォーマネー』を確保するため成果と各省庁の責任に集中するようになる。ボランタリー組織への支援へのアプローチの変化は、1990年に内務省によって実施されたボランタリー組織への資金提供の効率調査よって補強された。……一般的に、ボランタリーセクターへの政府の資金提供の基本的な基準は、政府にとって社会的に有用かどうか、各省庁の目的に貢献するかどうかであった。しかし、個々のボランタリー組織への財政や他のサポートの決定は、省庁のレベルによって決まった。」と当時の ボランタリー・コミュニティセクターと 中央政府との関係を示している。

 サッチャー政権は、非住居用資産レイト(地方税)を国有譲与税化にし、キャッビング制度の導入による国の地方自治体の経常予算の伸び率を上限設定することによって、地方自治体の財源の裁量を大幅に奪っていった。このような結果、政府が従来提供してきた福祉サービスをボランタリー・コミュニティセクターに委託するにしても、中央政府からの統制が厳しくなり、ボランタリー・コミュニティセクターへの資金提供がうまくいかず、サービスの質が低下した。また、強制競争入札CCTによって競争原理が働き、運営の効率性が求められ、さらに、政府や地方自治体とボランタリーセクターとの契約によって、政府や地方自治体はボランタリー・コミュニティセクターの事業の監査・事業評価を行い、ボランタリーセクターの運営の監視を行った。結果、地方自治体はボランタリー・コミュニティセクターをコントロールすることになった。

 これが、「請負文化」 Contracting Culture といわれるもので、ボランタリー・コミュニティセクターの自立性が損なわれていった。

 ボランタリー・コミュニティセクターの二分化(セクター全体の 1 割が、セクターの年間収入の9割近く占めるようになった。)が進み、協議の場に小規模なコミュニティグループやBME( Black and Minority Ethnic )組織が除外させられていった。

ニコラス・ディーキン教授が委員長を務めた「 ボランティアセクターの将来についての独立委員会」の報告書「変化 の挑戦への対応 : 21世紀へのボランタリー活動 」は、このような時代背景のもとで、 全国ボランタリー団体協議会( NCVO )によって 作成された。ここには、 政府とボランタリーセクターとの関係で6つの基本原則を述べている。

 @ 公共政策においては、ボランタリー活動のユニークな特性を認める必要がある。

 Aパートナーシップは対等を基礎に置かねばならない。

 B利用者の役割はセクターにとって重要である。

 Cボランタリー団体は、常にアドボカシー活動の自由をもつ。

 Dセクターの目的、目標からそれることなく専門的に経営されるべきである。

 E 資金提供源の多様性は、自立にとって最も良い保証の一つである。

 内容は、ボランタリーセクター活動の規模、政府担当部局などのパート1「現状」、中央政府、地方自治体の動き、それによる中間支援団体、資金提供、ボランティアがどのように影響を受けているのかといったパート2「外との関係」、法の中での資金やチャリティの活動を分析したパート3「活動環境」、効率、効果、責任などの 履行と統治についてパート4「 パフォーマンスと統治」、そしてこの委員会の説明のパート5「委員会について」、最後のパート6「勧告の概要」で 中央政府に対して61の勧告を行っている。

 政府とボランタリーセクターとの対等なパートナーシップの必要性を説き、両者の役割分担をより明確にし、互いに尊重しあう関係をつくること。とりわけ政府がボランタリーセクターの多様性や自立性に配慮し、ボランタリーセクターを単なるサービスの供給者ではなく政策形成のパートナーとして認めることとしている。

 そこで、勧告の2番目に中央政府レベルでボランタリーセクターとの基本的関係を明文化した協定コンコルダート concordat を作成することが提起されたのである。

「中央政府とセクター代表者の間のコンコルダート(協定)は、将来の関係のため、優れた実践コードとして作成されるべきである。これは、ボランティア担当閣僚部門とボランタリーセクターによって支持され推進されるべきものである。」

 当時、ボランタリーセクターの管轄であった国民遺産省は、「コンコルダート」という用語はボランティア組織の多様でダイナミックな本質からすると厳密すぎる関係を意味するといってボランティア組織の「自発的な」役割には理解を示すものの「協約」には否定的であった。

 この報告書を自らの政策に取り入れたのが、1997年に政権を奪取した、新労働党であった。1997年の労働党政策文書「共に築く未来」において、「請負文化」 Contracting Culture を「パートナーシップ文化」 partnership culture に変え、ボランタリーセクターの独立を保証し、次のように宣言をした。

「労働党は、…政府のあらゆる省庁とエイジェンシーが、ボランタリー組織と共に活動する方法を支えるため、一般的な原則を簡単な声明として、ボランティアセクターとのコンパクトを制定する…」

 ここにおいて、用語が「コンコルダート」から「コンパクト」 に変更し、明確な政府の意思としてボランタリー・コミュニティセクターとの「協約」の作成が方向付けられた。

ブレア首相は「第三の道」において、ボランタリーセクターとの新しいパートナーシップの構築を強調した。また、1998年のウェールズのコンパクトでは次のようなメッセージを送っている。「ボランタリー・コミュニティ組織は、生産的な時代をつくるという政府のミッションにとって重要である。各々がコミュニティの発展に関与することで、市民権を促進し、コミュニティ意識を再構築するのを助け、政府の目的にかなった包含的な社会のために重要な貢献をする。このコンパクトは政府とボランタリー・コミュニティセクターの関係を強化し、実践的なシンボリックな重要な文書である。」

 まず、1998年10月にスコットランドがナショナルコンパクトを作成、続いて11月、イングランドとウェールズ、12月に北アイルランドと続く。

 この内、イングランドでは、2000年7月に地方自治体でのコンパクトの作成のためのローカルコンパクトガイドライン、2000年5月からは、具体的指針を示した5つのすぐれた実践規範( Codes of Good Practice )が次々に公表される。

 2000年 5月「資金提供」 The Funding Code

        5月「協議と政策評価」 Consultation & Policy Appraisal Code

 2001年 2月「黒人と少数民族グループ」 Black & Minority Ethnic Groups Code

       10月「ボランティア」 Volunteering Code

 2003年 7月「コミュニティグループ」 Community Group Cord

 「 資金提供 」と「協議」コードは、多くのボランタリー組織が長年にわたって不満を表していた特有の課題に対応するものである。「 資金提供 」コードでは、契約でなく主に財政支援において、政府は、たとえ資金を提供する関係あったとしてもセクターの独立と、キャンペーンの権利を尊重すること。セクターは、合意目標にむけた活動のモニタリングや評価を受け入れ、すぐれた実践を追求すること。「協議」コードでは、ボランタリー組織に意見を求める場合、政府系機関によって通常許されうる最小の時間として、12週を規定する。さらに、組織で出された意見が政策に反映されなかったとき、政府に説明責任が生じる。

 BME コードでは、 黒人と 少数民族が政策の主な流れからいつも距離をおかれているため、恒常的な資源不足が生じていることなど、政府が BME 組織の個別の特性を理解するように推進していくことを求めている 。

2 コンパクトの内容

 @ ナショナルコンパクト

 1998年11月に公表されたイングランドのコンパクトは「 イングランドの政府とボランタリー・コミュニティセクターとの関係」 である。

 まず、ブレア首相のメッセージが冒頭にあり、国を挙げての合意文書であることを示している。「 コンパクトは、すべて対等な関係を導く手助けのしくみを規定 」「 政府とセクターがその発展と公の政策やサービスの交付を互いに補足しあう関係 」「 政府は国民生活の全ての場においてボランタリー・コミュニティの活動を推し進める役割 」「 ボランタリー・コミュニティ組織は時代を作り出す 」と述べている。

 つづいて、内務大臣と政府関係ワーキンググループ議長の共同メッセージが掲載されている。「 ボランタリー・コミュニティセクターは政府と市場と並列に働く『第三セクター』として社会の役割の中心を担っている」、「コンパクトはパートナーシップの発展の出発点であり価値を分け合い相互の敬意の基礎となる」、「すぐれた実践規範の開発や地方レベルでの採択を助成する」、「来年、1999年の年次総会の報告を期待する」と記されている。

 (@) コンパクトの位置づけ

 コンパクトはボランタリー・コミュニティセクターと政府の間の覚え書きである。それは、法的に拘束力のある文書ではないが、その権限は、政府とボランタリー・コミュニティセクターの協議過程を通して承認される。

 適用範囲は 中央政府機関のみならず、地方の行政機関やエイジェンシーを含み、ボランタリー・コミュニティセクターの多様な組織にも適応される。

 (A) 共通のビジョン

 コンパクトはイングランドの政府とボランタリー・コミュニティセクターの間の関係を補強する重要な原理と事業を作り上げる。

 ボランタリー・コミュニティ活動は、社会を含む民主主義の発展の根本である。

 独立した、非営利組織のボランタリー・コミュニティグループは、社会に特有の価値観を持ち、ボランティア活動の機会を与えることによって、個々人が、公的な生活やコミュニティの発展に寄与する

 ボランタリー・コミュニティ組織は、発言力をもたない人々を代行して主張する役割も有している。平等と多様性の両方を促進し、貧困を軽減し、生活の質を向上させ、社会的排除を包含していく。

 ボランタリー・コミュニティ組織の活動の範囲と性格から、常に政府の法律の制定や規制で、強い影響を受けるが、コンパクトによってプラスの方向へ向かわせる。

 (B) 共通の原則

 ・ ボランティア活動は、民主社会にとって本質的な構成要素である。

 ・ 自主的で多様なボランタリー・コミュニティセクターは、 社会の幸福の基本となる。

 ・ 公的な政策とサービスの発展と供給において、政府とボランタリー・コミュニ  ティセクターは異なるものの補完しあう役割である。

 ・ 共通の目的、目標にむけパートナーシップで付加価値が生じる。 意義ある 協議  で関係を構築し、政策の発展を改善し、サービスと計画の企画と供給を高める。

 ・ 政府とボランタリー・コミュニティセクターは違った説明責任が求められ、異  なる領域の利害関係者に適切な対応をする。しかし、両者の共通点は、誠実さ、  客観性、説明責任、公開性、正直さ、リーダーシップの必要性である。

 ・ ボランタリー・コミュニティ組織は、その目的を進めるための法律の範囲内で  キャンペーンをする権利を持っている。

 ・ 政府はボランタリー・コミュニティ組織の基金提供者として重要な役割がある。

 ・ 政府とボランタリー・コミュニティセクター双方は、すべての人々、人種、年  齢、障害の有無、ジェンダー、性的指向、信仰のいかんに関わらず機会の均等  を奨励する重要性を認識している。

 (C) 政府の約束

 〈独立性〉

法律の範囲内でキャンペーン活動をすること、政府の政策の批評する権利を含める。資金提供の有無に関わらず、その政策に異議を申し立てること、自らの問題として決意し経営することを支援。

 〈資金提供〉

 セクターとの協議において政府省庁の望ましい資金提供の「すぐれた実践規範」を作成すること。そこでは、明瞭で一貫した基準、活動目的の説明、評価の目的の透明性、長期の複数年次に及ぶ資金提供などを明記する。

〈政策形成と協議〉

 政府は、セクターに新しい役割と責任を申し出る場合、その協議において返答の期間を認める。そのため、利用者、受益者そして利害関係者が協議する組織の必要性を考慮に入れる。このとき、女性、マイノリティグループそして社会的に排除された人々の固有の必要性、関心そして貢献を考慮する。情報の秘密性を尊重すること。これら協議、実施、政策評価において「すぐれた実践規範」を作成すること。

〈 より良い政府 〉

 政府とセクターの間の一貫性のある対応とすぐれた実践のもとで関係性を促進する。特に問題が各部門に重なる場合、開かれた政治を促進する。セクターと共に毎年共同でコンパクトの効果を調査する。他の公的機関にコンパクトの採用を促していく。

(D) ボランタリー・コミュニティセクターの約束

〈資金提供とアカウンタビリティ〉

 資金提供者と利用者に対して報告とアカウンタビリティの責務をもっている。法律のもとで、キャンペーンにはチャリティ委員会の適切な指導を受け入れる。

〈政策形成と協議〉

 サービスの利用者、ボランティア、会員そして援助者に情報を正確に伝え、彼らの意見を聞き、協議する。もたらされた政府の情報の機密を保持する。

〈すぐれた実践〉

政府とその他の機関との効果的な関係づくりの促進。利用者が可能な限り、活動とサービスについての開発と経営に参加すること。政府と共同してコンパクトの実施を毎年調査すること。

(E) コミュニティグループと黒人と少数民族組織に関する問題

 コミュニティグループと黒人と少数民族のボランタリー・コミュニティ組織に固有の必要性、利益そして貢献が得られる特別の考慮が必要である。

 とりわけ、 多くの黒人と少数民族のボランタリー・コミュニティ組織は多様なグループやコミュニティを形成しているにもかかわらず、伝統的なボランタリー・コミュニティセクターの機構の外にあると感じられる。コンパクトはこれらの組織の援助や参加が、政府とボランタリー・コミュニティセクター双方の主要な課題であることを確実にする枠組みを定める。特に、資金は、黒人と少数民族の組織基盤を目標に定めるのに必要である。黒人と少数民族組織がパートナーシップのもとで協議や決定に直接参加する機会が確実になるために、政府とボランタリー・コミュニティセクターによって均等な歩調で成し遂げる必要がある。それは、彼らの組織の可能性を開発し現実化するのを助ける。これらの重大事は、黒人と少数民族のボランタリー・コミュニティ組織の特別な必要性と状況を反映させるすぐれた実践規範(BMEコードの作成)を通して取り組む必要がある。

(F) 意見の相違の解決

 枠組みの妥当性の不一致は可能な限り関係者の間で解決されるべきであるが、両者が同意するための調停手続きと 行政監察官への不服申立制度が必要かについて検討をする。

(G) コンパクトの発展にむけて

 コンパクトは出発点で終点ではない。政府とボランタリー・コミュニティセクターは共にその利用と有効性を計るように託されている。「すぐれた実践規範」として、ボランティア、コミュニティグループ、黒人と少数民族組織、資金提供、協議と政策評価のコード(規範)を作成する。政府とボランタリー・コミュニティセクターの代表者は年次総会をもち、その報告書を議会に提出する。コンパクトは地域の行政府を含む中央政府の各省庁やエイジェンシーに適応される。政府は他の公共機関に広げる、たとえば特殊法人に活発に促進される。そして、地方の政府においてもボランタリー・コミュニティセクターとコンパクトを採用し、広めていく。

附属文書

 コンパクトの機動力となったのは、ディーキン委員会レポート「ボランタリーセクターの未来」と政府が野党の時代に発表された政策文書「共に未来を築く」に起因する。

内閣府の大臣を長とする内閣委員会は政府の中のコンパクトの実施を監視する。委員会には次の機関が代表を務める。内務省、文化メディアスポーツ省、教育雇用省、環境、運輸と地域行政省、保険省、社会保障省、スコットランド政府、ウェールズ政府、北アイルランド政府である。

 政府関係者のボランタリー・コミュニティセクターのワーキンググループがセクターとイングランド政府との関係を向上する方法を考慮するために設置された。

 ワーキンググループの目的はコンパクトの本質の細目を調査することにある。

 協議文章は論評のために、すべてのボランタリー・コミュニティセクターに広く行き渡る。政府もまた各省庁にわたってコンパクト開発の協議を行き届かせる。

特定協議

 コミュニティグループの数は、何10万にもおよぶ。組織はコミュニティの会員によって他の人たちへサービスを提示する。また、組織にはキャンペーン活動団体、セルフヘルプ、余暇活動や芸術グループが含まれる。コミュニティセクター連合はコミュニティグループの代表者やこれらのグループを展開する全国組織の中においても、それを広げていく時にその独立性、民主制と自由な社会はとりわけ重要であるという特定協議を行った。

 また、特定協議の過程で、黒人のボランティア・コミュニティセクターの多様な組織が、様々なサービスとネットワークの援助をするグループであることが見いだされた。しかしながら、これらの組織はかれらが発展しようとするとき多くの障害に直面し、かれらの役割と発展の可能性の認識がないため、妨げられている。不適切な資金調達と認識は、他の組織がパートナーシップから黒人のボランティア・コミュニティ組織を締め出すことによって、いちじるしく影響をうけている。かれらの要望は、コードではなく、政府と黒人のボランティア・コミュニティ組織の別の形のコンパクトの作成であった。かれらは政府との協議の過程で完全な保証とコンパクトにおいて明確な必要性と境遇の責任をとることを熱望した。

A ローカルコンパクト

 ナショナルコンパクトの成立後、コンパクトの理念をより実効性のあるものとするため、

2000年にローカルコンパクトガイドラインがNCVO(ボランタリー組織全国協議会)内のWGGRS(政府関連ワーキンググループ事務局)と地方自治協会によって示された。

 ガイドラインによるとローカルコンパクトの目的は、地方政府とボランタリー・コミュニティセクターとの間のパートナーシップの進展によって関連する活動を改善していくことにある。ローカルコンパクトは、コミュニティへの貢献を高める ために、 独立した責任あるボランタリー・コミュニティセクターが自分たちの目的と法令によるパートナーの双方がうまく満たすことができるように、能力の開発を支援する方法を提供する。

 ローカルコンパクトは内容もさることながらその策定プロセスが同じぐらい重要視されている。そのため、小規模で資金のないコミュニティグループも含めた幅広い層をボランタリー・コミュニティセクターに結集させていく必要がある。(付録7において特にBMEグループとの関係性の重要性が述べられている。)また、重要な地域の政策、ベストバリューやニューディール、地域における様々な戦略などとリンクさせ、議員を巻き込むこともいわれている。

 内容は、共有原則、資金、協議、評価、モニタリング、総会、仲裁・調停などを地域の特質にあわせ盛り込むことが示されている。

3 コンパクトの現状

 2006年12月1日現在、全地方自治体388エリアの99 % でローカルコンパクトが成立、検討されているが実態はどのようなものであろうか。

 2000年から開始されたコンパクトの年次総会では、コンパクトの合意内容の進捗状況の確認、総括の中から新たな提案を行っている。また、同時にボランタリー・コミュニティセクターから政府に対する執行評価、さらにはボランタリー・コミュニティセクター自身の内部検証も行っている。

 2005年の第6回年次総会では 「 コンパクト自身について」はわずか13%しか政府を良いと評価していない。50%が不評である。また「コンパクトのコンプライアンス」

 では、 わずか7%しか政府を良いと評価していないのである。もっとコンパクトの内容を遵守していく必要があると述べている。

 このようにコンパクトに対する執行評価、 コンプライアンスともに低かった。

 聞き取りの中で言われていたのは、 地方での政策は常に新しいイニシアティブ(たとえば地域戦略パートナーシップ LSP や包括的社会パートナーシップ SIP )が生まれており、コンパクトのような初期のものは埋もれてしまっている。

 パートナーシップを促進するためには、適切な時間と資源、資金提供、人手の確保、チャンピオンの重要性、明確な目的と評価の手続きの確立が必要であるが、小さな コミュニティグループや黒人と少数民族( BME )組織は困難を窮めていた。利するのは大規模な ボランタリー・コミュニティセクターだけであった。

 内務省(2005年)によると、 BMEに対する政策課題は次の6点があげられている。

 1 労働市場

  永続的な民族の不平等が労働市場にある。たとえば、雇用水準、失業率、無業者率、収入があげられる。

 2 教育達成度

  特定の民族集団に教育達成度に不平等がみられる。結果的に労働市場への可能性に影響があらわれる。

 3 住宅

  少数民族集団は快適な住宅に住めていない。

 4 刑事裁判制度 Criminal Justice System ( CJS )

  少数民族集団に対する、たとえば強制停止、捜査、逮捕、投獄などの刑事手続きでの取り扱いの差。

 5 人種的不平等の認識

  少数民族集団が客観的にも主観的にも不平等を感じさせないようにする。

 6 健康での不平等

  いくつかの少数民族集団が、不健康な状態で、特定のサービスを受けられていない。

 イングランドでは、最も貧困な地方自治体88ヶ所が近隣地域再生資金補助対象に指定されている。犯罪、雇用、教育、健康、住宅・物的( physical )環境の課題に対して、具体的な目標値を定めており、近隣地域再生戦略が策定されている。この資金運用や戦略のために結成されたのが地域戦略パートナーシップLSPである。

 近隣地域再生戦略 は、2001年の国家戦略行動計画に組み込まれており、「社会的排除」を重要政策課題にあげるブレア政権による衰退地域への社会的包括策による。

 この国家戦略行動計画のビジョンは、「10〜20年以内に、だれもが住んでいるところによって、深刻に不利な立場にならない。低収入の人は破産して、普通の住民が経験するものとは別の異なる状況とサービスに苦しむ必要がなくなる。」ことで、目指すゴールは、「もっとも貧しい近隣がより低い失業と犯罪、より良い健康と技術、住宅と物的環境になり、もっとも奪われた近隣と残りの地域との間のギャップが狭くなる」状態をいう。

 地域戦略パートナーシップLSPは、近隣地域再生資金による都市再生国家戦略としての対策パートナーシップであり、BMEが多数占める地域では、 ローカルコンパクトが形だけのものとなっている現状があった。

 福祉中心の「依存文化」から、保守党サッチャーは市場原理主義を導入し、プライベイトセクターのみならず、ボランタリー・コミュニティセクターをもパートナーシップ「契約」をむすび、行政改革を推進していった。しかしこの「契約」はボランタリー・コミュニティセクターにとって事業の「請負」にすぎなく独立性、自律性を失っていった。1997年、変わった新労働党のブレアは、「第三の道」を掲げ社会的包含をめざした。「政府と市民社会の協力関係、地域主導によるコミュニティの再生、第三セクターの活用」であり、「第三の道の政治は、平等を包含、不平等を排除と規定する」ことにある。その具体的な現れの一つがコンパクトであった。

 しかしながら、差別と社会的排除のもとにあるBME組織は 小さな組織が多く、 ローカルコンパクトへの参入は キャパシティが脆弱な中で「パートナーシップ」により、自分たちのポリシーを行政に取り込まれるという危惧を強くもっていた。一方では、コンパクトに対する的確な情報がBMEに行き届かないこともあり、BMEの結集率は低いまま置かれている。

 現在、ボランタリー・コミュニティセクターは、内務省から内閣府の第三セクター庁の担当になり、コンパクトの項目を減らし、 ボランタリー・コミュニティセクター 参入への 認証カイトマークなどの内容を含む 「コンパクトプラス」への移行が検討されている。また、 2006年12月からは、財務省と第三セクター庁においてパイロットプログラム「地域エリアパスファインダーズ」が開始されている。

4  尼崎市 の 経営再建プログラム について

 尼崎市 は、戦前より阪神工業地帯の中枢を占め、重工業を中心に発展してきた。かって「工都」と呼ばれそのシンボルてき存在であった関西電力 4 発電所は1974年から撤廃を始め、2002年に完全廃止された。人口は1970年に55万8千人とピークを迎えたが、1990年に入り50万人を割り現在は46万人である。

 尼崎市 は現在の行政改革のまっただ中にいる。状況を判断するために、 尼崎市 の行政改革のあゆみを簡単に振り返ってみたい。

 尼崎市 は過去、戦後処理が一区切りついた1956年に、戦災復興に大量の資金が流れたために財政再建団体に陥ったことがある。

 1973年のオイルショック等の経済不況を受け低成長時代に入り、市の財政もたびたび、財政危機が生じ、歴代の市長のもと、「財政計画」「行財政改革」を実施してきた。

 ・1976年から1979年「財政健全化計画」

 ・1985年から1990年「行財政改善基本計画」

 ・1993年から1995年「行財政改革基本計画」

 右肩上がりの経済成長のもと、職員の採用停止や早期退職などで当面の危機を克服してきた。

 1995年「阪神淡路大震災」が発生。また、平成バブル崩壊からの長引く景気の低迷を受け、市税や収益事業収入が落ち込む一方で、公債費、扶助費などの義務的経費が年々増加してきた。そこで、市は1996年を「財政再建元年」と位置づけた。 

 ・1996年から2000年「行財政改革第 1 次推進計画」

 ・2001年から2003年「第 1 次行財政改善計画」

 しかし、これらの計画は、景気回復による収支改善の経験や政府の経済対策により、いずれは回復カーブを辿る、との景気循環意識からの幻想にすぎなかった。

 市の大きな収入源であった競艇事業からの収益は、ピーク時から100億近い減収となった。それに比べ市には低所得者が多く、支出要因である生活保護世帯の割合が周辺都市と比べて高い。 尼崎市 の財政は回復せず、経常収支比率は2001年度で、100.5と高く、このまま推移すれば、2007年には、約800億円の累積赤字が生じ、「財政再建団体」に陥ることは必至だった。

 2002年6月「 尼崎市 経営再建プログラム(再建の目標と基本方針・執行方針)」を策定。続いて同年10月には、経営戦略と具体的な改革改善291項目を含む「 尼崎市 経営再建プログラム(改革改善編)」案が提示される。

 ・2003年から2007年「 尼崎市 経営再建プログラム」

 名称にはじめて経営(= management )という用語が使用され、NPM( New Public Management )を強く意識したものになった。累積赤字約800億円をゼロにし、収支の均衡を計ることを目的にしている。その基本方針の1つが、事務事業をゼロベースからの再構築で、公共サービスのアウトソーシングの推進が掲げられている。

 手本としたのが先行していた自治体の行政改革であった。三重県では1995年から、民間経営手法を大胆に使い、前例主義、手続き主義、非公開制といった古い官僚制度的体質の改革を事務事業評価の視点を取り入れることから始めた。また、2000年度からの 福岡市 のDNA運動は現場(事務事業執行段階)の内部改善運動は行政改革での職員の意識変革をもたらした。

 尼崎市 では1999年から「事務事業評価システム研究会」が設置され、2001年度から本格導入となる。事務事業評価において、発生主義会計である減価償却、退職給与引当、機会原価等を加算したフルコストを実施している。導入目的は、(1)評価内容を情報開示することによって、行政として説明責任を果たし、透明で開かれた行政経営を推進すること。(2)行政活動によって提供されるサービスやその成果を顧客である住民の視点から客観的指標で評価し、改革改善を推進していくことにある。

 NPMに関する新たな行政経営システム導入を示すと以下の時期である。

 2001年度 事務事業評価

         バランスシート作成

 2003年度 施策評価委員会の設置

         全庁的改革改善実践運動「YAAるぞ運動」〜2005年度

         新規事業評価(一部実施、2004年度本格実施)

 2004年度 枠配分予算編成手法

         指定者管理制度(7月)

 先にイギリスの施策の流れを見たとおり、 NPMは1980年代半ば以降イギリス、ニュージーランド、アメリカ合衆国などの国が、財政赤字・公的責務の肥大化、公共部門の業績悪化に対して取り入れた方式で、民間企業の経営理念や手法を可能な限り、公共部門に導入していく新しい公共経営システムである。

 NPMのコンセプトは、@顧客主義への転換(税金を払う住民を顧客とする「サービス産業」と見ること)、A業績/成果による統制(数値目標の設定と行政評価)、Bヒエラルキーの簡素化(組織のフラット化等)、C市場メカニズムの活用(民営化、エイジェンシー、PFI、指定管理者制度等)の4つである。

 地方自治法(第2条14)にも通じる「最少のコストで、最大の公共サービス」をあげることを目標にしている。

 だからこそ、これまでの行財政改革のように、定数削減、給与凍結、資産売却といったコスト面だけを小手先で動かすのではなく、PDCAサイクル( Plan Do Check Act cycle )のもと、住民サイドのニーズを反映したマネジメントが必要になる。

 この 「 尼崎市 経営再建プログラム」のほとんどが事業の廃止、見直し(当初、291項目であったが、その後、修正や追加されている)であるが、22項目が「新たな行政システムの確立」である。そこに「協働の仕組みづくり」で「市民と行政のパートナーシップの確立」が掲げられている。つまり 尼崎市 の「協働」の取組みはこの「 尼崎市 経営再建プログラム」の中のNPM手法の「民間活力導入」「市場原理の活用」に組入れられた位置付けになっているのである。

5  尼崎市 の協働ガイドラインについて

 地方自治体の総合基本計画の中で「協働」という文言が明記されていないのは希有である。「協働」は行政改革のトレンドでもある。2000年12月にだされた「 尼崎市 第 2 次基本計画」においても「協働型のまちづくりの仕組みをつくる」が4つある戦略プランの筆頭に掲げられている。しかしながらこの目標を具体化する新たなシステムはしばらく考案されなかった。それを推し進めたのが2002年に当選した白井新市長であった。この年の11月、自・民・公・由・保の5党が相乗り推薦し、約200団体と組織力を誇った現職候補が、約5000票の差をつけられ、無党派新人に敗れ去ったのである。要因の一つに挙げられるのが、選挙前に市民に公表された「経営再建プログラム」の是非であった。

 住民にとって公共料金の値上げ、公共施設の統廃合、福祉サービスの受益者負担増など住民の負担を強いる改善策を見直すことを公約に選挙にのぞんだ結果でもある。しかし、だれが首長なるにしても、 尼崎市 の慢性的な累積収支の赤字を改善するためには、大なたをふるわなくてはいけなかった。市長は YAA るぞ運動(全庁的改革改善運動)、市民と直接語り合う車座集会、市民との協働へ向けた施策づくりといった職員や住民からのボトムアップ方式で乗り切ろうとしたが、具体的な事業展開に関して大きな壁となったのが議会であった。

 12月議会は市長の所信表明演説と、それに対する議会各会派の代表質問で始まったが、最大会派のベテラン議員は慣例に反して質問項目を事前に示さず、新市長の見識を確かめる形で矢継ぎ早に質問を繰り返した。このことが象徴的に示すように、新市長と破れた前市長を推していた多数の市議会議員との信頼関係は皆無であった。市長が公約で示した、ガラス張りの市役所や、市長退職金を3500万円から500万円に減らす案も、議会で否決され、その後2年が経過しても、市長が選任した30代の女性の教育長人事に関して承認されなかった。このような状況のもとで、「協働」に関する事業予算も全てが通ったわけではなかった。

 2003年度から協働参画室を設置。翌年度からは、協働参画課として企画財政局内の一部署となるも当初は一般職員の認知度は低かった。協働参画課は、庁内や市民活動の状況を把握するためアンケート調査から始めた。年代からいえば次のとおりである。 

 2004年6月〜10月 特定非営利活動法人の活動状況調査
 2004年9月〜10月 庁内協働事例調査
 2005年1月     協働等に関する職員意識調査  
 2005年1月〜 3月 ボランティアグループ・市民活動団体への協働等に関する調査
 2005年2月     市民活動に関する意識調査(ネットモニター)

 ここで重要なのは、アンケートで現れた職員の意識である。これまでの地域団体や市民グループとの協働の事例の経験から「協働により事業を実施することのデメリット」の項目をみると「調整に時間を要する」「相手に依存しがちになる」「考え方や進め方の違いがある」「NPOの組織体制や事業の遂行能力が不安」「仕事や経費の負担が増えた」「行政側の問題意識が低下する」「役割分担次第で非効率になる場合もある」といった回答であった。職員の「協働」という言葉の認知度は98%と高い比率である。しかし、本来の「協働」の意味からすると全く対等な「協働」が実施されていない現実がデメリットとして意識されているのであろう。「協働」に値しない取組みを「協働」として認識しているところからくる回答である。それは「請負」「下請け」事業に過ぎないのである。

 また、協働のまちづくりが進んでいない主な原因として、「職員、市民ともに協働の意識が浸透していない」「協働を進める市の基本的な考え方が示されていない」「職員にノウハウがない」が高い回答率であった。また、協働の相手として、NPO(30%)よりも地域団体(35%)の方がよいと答える職員が多いというのが特徴である。NPOに関しては、協働のしくみづくりと情報の共有化を求めていた。

 こういった現状をふまえ、 尼崎市 は、協働のしくみ「協働ガイドライン」を3年の月日をかけて成立する。この3年という期間は、市民との協働参画の産物であるし、そこには、 尼崎市 と 尼崎市民の意識と意向が反映されているといってもよい。別の見方をすれば、 尼崎市の市民社会の成熟度が表出した形でもある。

 まず2004年11月に 尼崎市 職員による庁内検討チームが結成された。このチームは、市民との「協働」の連携、促進などに関係する担当課の課長級職員と公募によって参加した「協働」に関心のある職員計18人で構成された。その結果、翌年2005年4月に「 尼崎市 における協働について」庁内検討チーム研究報告書としてまとめられた。これは、 尼崎市 側からみた「協働」草案の形をとることになる。いくつかの先例都市の「協働」の各種文書を参考にしながら、市の施策事例を反映させた形となった。全ての事例にあてはめようとした結果、他の自治体ではあまり例をみない、「3つの協働」の形(図表1)や個人としての市民も「協働の主体」として位置づけされている。

図表1

 次に 尼崎市 は、市民独自による「協働のまちづくり」の構想をまとめるべく、市からの推薦委員15人と一般公募30人計45人で「協働研究会」を2005年6月に発足させた。市の推薦は、社会福祉協議会各支部や民生児童委員協議会連合会、老人クラブ連合会、子ども会連絡協議会、PTA連合会、連合婦人会などこれまで 尼崎市 がパートナーとしてきた地域の組織団体の代表の人たちと商工会議所、青年会議所という企業、そして社会福祉協議会ボランティアセンター、コープ活動の人たちだった。公募者には市民活動やNPO法人の人もふくまれていた。アドバザーに3人の学識経験者がつき、3つのテーマでグループに分け検討を重ね、2006年9月に「市民からみた協働のまちづくりのあり方についての提言」が出された。 そこで以下の8つの提言がまとめられた。

 1 今までの経験を発展させ、より充実した協働の展開を目指しましょう。

 2 対等な関係のもと、役割分担を行い、それぞれの得意分野を生かしましょう。

 3 情報提供・情報共有・共同作業により、心と力を合わせ信頼関係を築きましょう。

 4 「自分たちのまちは自分たちで」を合い言葉に、活動人口を増やしましょう。

 5 行政職員は協働についての「知識」を「意識」に変え「行動」を起こしましょう。

 6 地域課題の解決に向けた提案を受け止め、実現できる仕組みをつくりましょう。

 7 マネジメント機能を充実させ、自主的な活動への支援体制をつくりましょう。

 8 様々な団体やグループがつながることができるよう、相互理解を深めましょう。

 ここでの特徴は、地域コミュニティが全面にだされ、地域自治が意識されていることと共に行政職員の積極的な関わりや縦割り行政の弊害の克服、地域からの課題提案への受け止めるシステムづくりなど行政への提言があった。

 続いて、2006年10月に、 庁内検討チームに在籍していた職員5人と「協働研究会」の委員12人とアドバイザーであった2人計19人で構成する「協働推進会議」を設置した。ここでは、 庁内検討チームの「尼崎市における協働について」を土台に、 「協働研究会」での提言書の内容を入れ込んだ「協働のまちづくりの基本方向」事務局案が提示され、7回の協議の後、2007年3月に「協働のまちづくりの基本方向(素案)」としてまとめあげられた。この協議過程はインターネット上で公開されており、市民の意見が読み取ることが可能である。

 さらに、同年4月この素案を職員に提示し意見を求め、7人26件の意見があった。また5月から6月にかけてパブリックコメントで市民からも意見を求め11人51件の意見があった。それぞれ「協働推進会議」にかけられ、意見を反映させたり参考にしていった。

 その結果、同年7月に正式に「協働のまちづくりの基本方向」きょうDOガイドラインとしてまとめあげられたのである。

 図表2は市民参加による『きょう DO ガイドライン』の作成までをまとめた図である。

 図表3は『きょう DO ガイドライン』までの内容の変遷をテーマごとに分けたものである。青い斜体の文字は最終的に変わった部分であるが、その分析は次の章にゆずる。

図表2 『きょう DO ガイドライン』作成の流れ

図表3『きょう DO ガイドライン』までの変遷

  庁内チーム 市民(研究会) 事務局案 最終
定義 性格や立場、長所や特性の異なる様々な自立した主体が、お互いを認め合い、分かり合い、そして尊重し合いながら、適切な役割分担のもとに、時には連携し協力し合いながら、より良い地域社会、暮らしやすいまちづくりに向けて行動していくこと

地域住民と自治体職員とが、心を合わせ、力を合わせ、助け合って、地域住民の福祉の向上に有用であると、自治体政府が住民の意思に基づいて判断した公共的性質を持つ財やサービスを生産し、供給していく活動体系である

(米国の政治学者)

立場や特性の異なる様々な自立した主体が、お互いを認め合い、分かり合い、尊重し合いながら、適切な役割分担のもとに、時には連携し協力し合いながら、より良い地域社会、暮らしやすいまちづくりに向けて行動していくこと 立場や特性の異なる様々な主体が、お互いを認め、分かり、尊重し、適切な役割・責任分担のもと連携し、 自治意識を高め、相乗効果 を上げながら、より良い地域社会、くらしやすいまちの実現に向けて行動すること
パターン

@参画型の協働

A自立型の協働

B共同型の協働

 

@参画型の協働

A自立型の協働

B共同型の協働

@ 連携型

A 参加・参画型

必要性

1 まちに愛着が持てるようなまちづくり

2 市民の活力、市民意識の高まりを生かす

3 もはや行政だけでは限界

4 職員の意識改革、市民とともにある市役所づくり

1 尼崎の地域課題、社会的課題を解決するために

@安全・安心に暮らせるまちづくり

Aまちのイメージアップ

B尼崎の特性を生かしたまちづくり

C公的サービスのあり方の変化

2 協働の問題を解決し、協働の成果を広げるために

3 こんな尼崎を目指すために

1 地域コミュニティの再生のため

2 多様化する市民ニーズ、地域課題に対応するため

3 市民の活力、市民意識の高まりを生かすため

4 尼崎の特性を生かしたまちづくりのため

1 誰もが 安全・安心 に暮らすことのできる地域コミュニィを再生するため

2 市民の活力、意識の高まりを生かし、多様化する市民ニーズ、地域課題に対応するため

3 尼崎の特性を生かしたまちづくりを進めるため

姿勢

1 目的や課題の共有

2 自発性と自主性の尊重

3 組織と活動の変革の受容

4 協働関係の時限制

5 透明性と情報公開

6 協働に臨む意識

(コラムとして対等性に言及)

1 対等の原則

2 自主性尊重の原則

3 自立化の原則

4 相互理解の原則

5 目的共有の原則

(以上、横浜コード)

6 自己変革受容の原則

1 目的や課題の共有

2 対等な関係の確保

3 自発性と自主性の尊重

4 相互理解と相乗効果

5 自己改革の受容

6 関係の時限制

7 透明性と情報公開

1 目的や課題の共有

2 対等な関係の確保

3 相互理解

4 自発性と自主性の尊重

5 自己改革の受容

6 透明性と情報公開

検証と評価

基本的な方向  

1 今までの経験を発展 さ せ、より充実した協働の 展 開を目指しましょう 。

2 対等な関係のもと、 役 割分担を行い、それぞれ の 得意分野を生かしまし ょう。

3 情報提供・情報共有・共同作業により、心 と力 を合 わせ信頼関係を築きまし ょう。

4 「自分たちのまちは自 分 たちで」を合い言葉に 、 活動人口を増やしまし ょう。

5 行政職員は協働につ い ての「知識」を「意識」 に 変え「行動」を起こしまし ょう。

6 地域課題の解決に向 けた 提案を受け止め、実現 でき る仕組みをつくりまし ょう。

7 マネジメント機能を 充実 させ、自主的な活動へ の支 援体制をつくりまし ょう。

8 様々な団体やグルー プが つながることができる よう、 相互理解を深めまし ょう。

1 協働を進めるための意識づくり

2 まちづくりに関する情報の共有化

3 市政への市民参加・参画の推進

4 市民の自主的な活動への支援

5 協働を推進する体制の整備

1 協働を進めるための意識づくり

2 まちづくりに関する情報の共有化

3 市政への市民参加・参画の推進

4 市民の自主的な活動への支援

5 協働を推進する体制の整備

6 コンパクトからみた 尼崎市 の協働ガイドライン

 まず 尼崎市 の 『きょう DO ガイドライン』の特徴をみてみる。

•(1) 市民参加による『きょう DO ガイドライン』の作成である。(図表2)

 市民からの意見や提言を市の学識経験者をふくむ設置委員会で反映されていくパターンはよくみられるが、 尼崎市 の場合、市としてのリードは保持してはいるものの、公募職員、公募市民が参加していること。されには素案段階で再度、職員と市民から聴取や公募をして意見を取り入れたことがあげられる。

(2) 協働の主体が組織だけではなく、「市民個人」が含まれること(図表4) 

(3)協働を「連携型」と「参加・参画型」の2つの型に分けたこと(図表4)

   最終的に3つが2つに整理され、図表4の形となったが、事務局案が最後まで生きのびることになる。

(4) 横浜コード(対等 の原則 、自主性の尊重 の原則 、自立化 の原則 、相互理解 の原則 、目的共有 の原則 、公開 の原則 )以外の「自己変革 受容 」「検証と評価」を入れていること。

   横浜コードは1999年3月に「 横浜市 における市民活動との協働に関する基本方針」中にある 市民活動と行政の協働の6原則 である。以後、各自治体で協働の実践や海外の事例を参考に協働の姿勢にいれている。

(5) 条例ではなく、ガイドラインである点

 「この施策を実際に実施・検証していく中で、必要性が生まれて機運がたかまったときに、具体的な条例の検討をしていくことになればいい」と2007年3月の第6回協働推進会議で意見が述べられているように、このガイドラインは現時点での方向であることが確認されている。市民社会の発展とともに充実されるように望みたい。

(6) 住民自治の位置づけがされている。

 「住み、集う人たちが共に心と力を合わせ、自分たちのまちだから自分たちで良いまちにしていくという住民自治の原点にたつ」と『きょう DO ガイドライン』の「なぜ協働が必要なのか」の章にあるが、これは、「協働研究会」での議論が反映されている結果である。

 それでは、なぜにこのような協働ガイドラインが生まれたのであろうか。個人の参加に重きがおかれ協働のイメージ図(図表4)の「参加・参画型」が主であり、「連携型」においては地縁型市民活動団体が中心となっている。その背景となる 尼崎市 の特性を考えてみたい。

 敗戦で解散させられた町内会は、 尼崎市の場合、社会福祉協議会として存続し、昔から尼崎市への参加の住民代表として社会福祉協議会が勤めていた。社会福祉協議会は、社会福祉法人として本部があり、その下に自治会連合として6つの支部社会福祉協議会がある。

 尼崎市が、合併した尼崎町、小田村、大庄村、武庫村、立花村、園田村を基盤にしている。それぞれの支部社会福祉協議会(支部社協)には、町内会連合としての社会福祉連絡協議会(連協)があり、総計74である。これが、地域のまとまり(地域コミュニティ)の単位となっており、他都市のように小学校区と重なっていない。(地域コミュニティの再生として兵庫県が取り組む県民交流広場事業は、 尼崎市 のみ、小学校校区単位ではなく連協エリアを単位としている)連協の下に町会単位の自治会があり、総計628を数える。新しいマンションや住宅街では、自治会を組織していない地区や町会があっても新しい住民が自治会に加入しないことがあり、結果として社会福祉協議会や行政の情報がいきわたりにくい状況がある。年々減少し続けていて2006年時点で、全市の社会福祉協議会加入率は66.6%である。6支部社協の中で94.4%のところから40.7%まであり加入率に温度差がある。

 構成団体として、民生児童委員協議会連合会、老人クラブ連合会、子ども会連絡協議会、PTA連合会、連合婦人会など15団体である。

 行政と社会福祉協議会は長年の関係により、もちつもたれつの関係であった。住民の行政に対する依存感は強く、地域団体の事務局は行政が担当するケースが多く見られる。

 NPO法人の数は、2007年で70前後である。他の阪神地域自治体と比べて活動が弱い。これは、ボランティア元年といわれた阪神淡路大震災の経験によるものと思われる。

 尼崎市 では、阪神淡路大震災では、半壊が多く、行政サービスが機能した。結果として住民の自立した活動が芽生えにくかったことは確かである。

図表4 2つの協働のイメージ図

 ここで改めてイギリスのコンパクトをふりかえってみよう。

 コンパクトは、政府自治体とボランタリー・コミュニティセクター(NPO)との紳士協約である。そこでは ボランタリー・コミュニティ( NPO )活動は政策形成のパートナーであると位置付けされ、これまでのように単なる行政の サービスの請負ではなく、多様性と自立性をもつセクターであること、さらにこの活動が コミュニティの発展に関与しており、 民主主義の発展の根本であると規定している。

 そのため、 政府自治体とボランタリー・コミュニティセクター(NPO)との 対等性の確保するためのさまざまな協約(コンパクト)が明記されているのである。

 まとめると、@双方の権利と責任の明確化。A双方が補完 しあい 相乗効果を上げる 。 B ボランタリー・コミュニティセクター(NPO)にも 説明責任が求められる 。 Cボランタリー・コミュニティ(NPO)組織はキャンペーンをする権利を有する、D政府は基金提供者としての重要な役割を担う 。 E人種、年齢、障がい、ジェンダー、性的指向、信仰のいかんに関わらず全ての人々の機会均等を保証する 。F 黒人とマイノリティ組織に特別の考慮の必要性 「優れた実践規範」として明文化する。G 調停手続きと不服申し立て制度である。また、PDCAサイクルとして、年次総会をひらき検証し、報告書は議会に提出することになっている。

 尼崎市 の「協働」の定義は「立場や特性の異なる様々な主体が、お互いを認め、分かり、尊重し、適切な役割・責任分担のもと連携し、自治意識を高め、相乗効果を上げながら、より良い地域社会、くらしやすいまちの実現に向けて行動すること」としている。「協働の主体」として挙げられているのが、市民と行政である。市民の中に@市民個人、A市民活動団体(社協などの地縁型とボランティア団体やNPO法人などのテーマ型)、B事業者(企業)があり、それぞれが「協働」主体となるとしている。

 しかしながら、 「協働」の関係において、@パートナーのそれぞれの主体が自立していること、Aまた、その主体が客観的な自立性が確立していること、B各主体が共通の目標を有していること、C各主体が対等であること、Dパートナーシップに対する関係が公開されていることなどが前提となるが、「市民個人」は行政組織や他の団体との参加や協働において「対等」な関係は築くことは不可能である。 

 対等性が確保されるためには、個人的対応ではなく行政の組織に対応する、組織団体が必要である。個人が自由にモノが言えても、決定権は組織にあることが多分にある。それは、1969年に アーンシュタインが「市民参加のはしご」でいった5段階〔懐柔〕の位置にすぎないのである。

 市民活動団体は 政策形成パートナーとしての位置づけられているであろうか。

 尼崎市 の財政の ストック分析からみても、資金繰りが苦しく償還能力も低いことが明らかである。経常経費と投資的経費を制御して、歳入確保に努めなければならない状況下にある。『きょう DO ガイドライン』において「なぜ協働が必要なのか」に「市民の活力、意識の高まりを生かし、多様化する市民ニーズや地域課題に対応するため」と人件費の抑制、民間移管・委託の推進、公共施設の廃統合など、公共サービスの見直しが余儀なくされている中、もはや行政だけでは対応することが困難な状況を述べている。また、「協働を進める上での姿勢」に「対等な関係の確保」の項があり「下請けや従属といった上下の関係でなく、お互いに自由に意見が言えるなど、パートナーとして対等な関係を保つよう心掛けることが必要です。」とある。しかし、「心掛け」だけでは、市の基本計画である「 経営再建プログラム」の「市場原理」「 効率性」からのがれることはできず、「下請け」に陥ることは必至である。

 図表5は、市民と行政の協働の領域を示した有名な図である。具体例として 尼崎市 では、 市民との協働の要素が強いBの段階においても、行政がコーディネートの役割をすることになっている 。

図表5

 コーディネートの役割は、協働領域全てに必要であるが、あえて、Bの段階まで、行政がコーディネートをするという必要性はない。それはむしろ インターミディアリーNPO のコーディネートの役割であり、 行政とNPOとが対等性を確保するために 重要なポイントである。 尼崎市 の人口規模では、インターミディアリーNPO法人が2〜3必要であるが充分でないのが現状である。

 さらには、「 庁内検討チーム研究報告書 」の段階から、AやEの「市民・行政の責任と主体性によって独自に行う領域」においても一定の条件のもとでは協働の範囲に含まれるとしている。とりわけ住民自治やNPO活動は、独自性が大切であるが、この発想は行政(権力)の本音としての支配欲が垣間見え危険なことである。

 こういった行政の「領域侵犯」や「請負」「下請け」にならないためには、 具体的な「協働」実施にあたって、相互理解を確認する コンパクトのような 契約文書の取り決めが必要である。いわゆる仕様書だけでなく、目的、相互の役割、不履行責任などなど契約時に明文化をすることである。

 従属化、下請け化になる恐れがあるのが行政からの 資金調達である。資金調達の公正な方策を検討する必要があり、その場合でも、ロビー活動、キャンペーン活動を認めることである。 当事者性を重要視するためには、 マイノリティ組織の キャンペーン活動を政策に生かすとも大切な点である。

 「協働」の評価の手法の検討する必要がある。アウトプットでなくアウトカム指標を目指していく。行政のマクロの量としての数値化ではなく、NPOの個別のミクロの量としての有機的数値化の評価(「参加数」ではなく 「満足度」「意識変革」「実現化数」 )を目指していくこと。

 とは言っても 尼崎市 の他にはない「強み」を生かすことも考えなくてはいけない。それは地縁型市民活動を基盤とする 住民自治の活性化であり、 地縁型市民活動とテーマ型市民活動の役割の区分の明確化である。 「統治の倫理」で動く 地縁型市民活動 とミッションを掲げ、テーマの解決を政策へと結びつけていく テーマ型市民活動の NPO活動をどのようにして「連携」していくのかの手だてをつくることである。

 地域課題をすくい上げる NPOの育成。社協単位の壁を超える役割のNPO、これは、地域社会でいきづまった人間関係の風通しをよくすることにつながっている。

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