2 講座の概要
(1)開催の目的
講座の目的は、『市民、NPO、行政、企業など、さまざまな分野の人々が力を合わせて、より良い社会の実現を目指す「参加協働型社会」における協働の概念を明らかにするとともに、より良い協働事業を進めるための専門職として、また真の参加協働型社会を拓く新しい「職能」としての「協働コーディネーター」を養成する』ことであるが、初級編としての今講座は、「協働コーディネーター」を養成するというミッションの第1段階であるとともに、「正しい協働の概念」や「職能化された協働コーディネーターの必要性」を参加者に理解してもらい、広く普及することが目的だと私は位置付けていた。
(2)各ブログラムの目的と実施内容
総合コーディネーターのアドバイスにより、アイスブレイクで実施した、
参加者の居住地を日本地図上に記載したもの。女性が赤字、男性が
黒字または青字で記入。アイスブレイクに非常に高い効果を発揮した。
@レクチャー1 「協働、協働コーディネーターについて」 (世古代表理事)
「公共」とは何か、「協働」とはどういうことなのか、また「協働コーディネーター」の役割や必要性についてレクチャーすることにより、様々な立場、背景、経験をもつ講座参加者に、正しい協働の概念を理解してもらうことを目的にプログラムを実施した。
A講演「CSRの動向について〜社会的責任とパートナーシップ〜」
(株式会社損害保険ジャパン CSR・環境推進室長 関 正雄 氏)
ここ数年「企業の社会的責任(CSR)」が注目されている。しかしながら、寄付や助成、またメセナなど、どちらかというとスポンサーシップ的な関係は今までにもあるが、まだまだ、「協働」という観点では、市民セクター、行政セクターにCSRや企業セクターとの協働ということが、十分浸透し理解されているとは言い難い。
また、今後、行政も一部の公益的な領域から手を引いていく、また引かざるを得ない状況を考えると、市民セクターと企業セクターが競合する場面も多くなるかもしれない。そのような、状況の中で、CSRの背景や意味を理解し、企業セクターとの協働について考えていくことを目的に、プログラムを実施した。
B講演に関する質疑及び情報整理
参加者からの講演に関する質疑を世古代表理事が情報整理し、それに対し関氏が答える形で行った。
単なる質疑応答でなく、参加者からの質問をコーディネーターが情報整理することにより、質問の真意が明確になり、より効果的なレクチャーとなった。
Cレクチャー2 「東京ボランティア・市民活動センターの運営について」
(東京ボランティア・市民活動センター副所長 安藤 雄太 氏) 東京ボランティア市民活動センター(以下「TVAC」という)の自立した運営について、レクチャーを受けることにより、NPOと行政の関係(特に「委託」と「補助」の違い)について考えるプログラムを実施した。
TVACも運営資金の獲得が課題であることは、他の団体と同様であり、当初は行政からの委託による事業を実施していた。しかし、委託事業はあくまでも「行政の仕事」であり、「市民活動を行政の仕事としてやるべきか?」という判断から、現在はそれらを補助事業に切り替え、「行政の権限を入れない」という考え方で、行政からの委託を受けない事業運営を行っている。
自主財源の確保が厳しい中で、このような運営を行っているというレクチャーは、「委託」と「補助」の違いを明確にするとともに、NPO・行政それぞれの立場の参加者にとって、行政からの委託や補助のあり方、受託のあり方について考える機会となったと思う。
Dレクチャー3「委託と補助」「公共哲学」 (世古代表理事)
安藤氏のレクチャーを受け、さらに「委託と補助」について、また、「公共哲学」について、世古代表理事が補足的にレクチャーを行い、以下のとおり、職能化された協働コーディネーターの役割や必要性について明らかにした。
委託は行政が主導し、市民に委嘱する市民参加方式による協働の領域であり、補助は市民が主導し、行政が積極的な支援をする協働の領域である。
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委託事業 |
補助事業 |
事業対象 |
本来、行政の責任でやるべき(税金でやる)領域、かつ、行政の中に専門性がない場合に委託する |
本来、行政の仕事ではないが、公共の福祉が増進すると社会が認めた場合に、税の再配分権を行使して補助する |
事業主体 |
行政 |
補助を受ける側(市民) |
成果物 |
委託者(行政)に帰属し、受託者が自由に使えない |
原則、受託者が自由に使える |
継続性 |
行政からの委託が続く可能性がある |
補助事業として採択されず、事業打ち切りのリスクがある |
(本表は、レクチャーをもとに筆者がまとめた)
アウトプットを共有するため、また首長の交代により協働に関する政策が変わることのないように、「公共」が市民のものであることを確認する、しっかりした「協働協定書」の締結なども今後の課題である。
これから「公共」を考えるときに、「公共哲学」からすべてを考えていく。参考になるのは、稲垣久和国際基督教大学教授の考え方。ヨーロッパの審議会では必ず哲学者が入ることからもわかるとおり、「公共」を考える場合には哲学が必要であり、協働を進める場面でも、「公共哲学」をベースにモノを言えるようにする必要がある。
いずれにしろ、NPOにとっては、自分たちが委託と補助のどちらを選択するか、もっと言えば、単にお金が欲しくて進むのか、自分たちのポリシーで進むのかは重要な問題であるし、行政におけるコーディネーターの役割はプロジェクトを作るなどして補助と委託の見直しをしっかり行うこと、また、市民セクターにおけるコーディネーターも同様に、幅広い横断的な合意をとりまとめ、行政セクターとのセクター間の協働をすすめていくことが必要であり、中間支援団体がネットワークを組み、どのように行政セクターにアドボカシーをするかということが課題となる。そして、そこに協働コーディネーターの社会的意義が存在する。
EWwsh poemのワークショップ (石原)
「アイスブレーキング」、「合意形成の練習」、「情報共有」、「課題抽出の訓練」として、Wish poemのワークショップを実施し、筆者がファシリテーターを行った。
Fファシリテーターの評価と情報整理のWS (世古代表理事)
Wish poemのワークショップにおける筆者のファシリテートを、参加者に「良かった点」「改善点」を挙げてもらい、それをグループで、項目を付けて情報整理していくワークショップを行った。これは、筆者を評価するとともに、情報整理の概念を理解してもらう目的で実施した。
以上のように、この協働コーディネーター養成講座では、2日間のプログラムで「協働」及び協働を進めるために必要な様々な概念や定義を明らかにするとともに、協働をコーディネートするために必要な能力を体験型のプログラムで学習することができる。
本講座参加したことのない読者の方には、是非講座に参加されることをお勧めしたい。
※巻末に2日間のプログラム表を記した。 |