(6)広報協議会は、政党等による無料広告を行なわせます(第106条・107条)。その際、政党だけにこれらの放送枠が配分されます。他の団体が放送をする場合は、政党の指名によって、その持ち分の一部を使うことができるとしています。
つまり、運動の主体は政党であって、NPOなどの市民団体は全く配慮されていません。ここに国民投票法案の重大な欠陥があります。前述したとおり、憲法は国民が政府に対して歯止めを行なう規範法です。にも関わらず、政党中心の改憲運動としてのみ位置づけられていることは、大変な問題です。
また、広報時間の長さなどは、賛成・反対の政党双方に、「同一時間数および同等の時間帯を与える等、同等の利便を提供」すると規定されていますが(第106条第6項、第107条第5項)、改憲派の議員が多い現状では、実質的には「改憲案」支持の広報が圧倒的に押し寄せてくることになります。
(7)「組織により、多数の投票人に対し」投票の買収や利益誘導を行なうと処罰の対象になります(第109条)。3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金。
金銭や物品や饗応による買収・利益誘導は当然やってはいけません。しかし、「投票への影響を与えるに足る申し込みもしくは約束をしたとき」「影響を与えるに足る誘導をしたとき」という規定を読むと、これは見過ごすわけにはいかなくなります。政党だけでなく、労働組合や市民団体の意志決定に対しても適用される恐れがあるでしょう。NPOが組織として「改正」反対を主張する会議を開くと、これが法に触れて摘発のターゲットとなってしまう恐れがこの規定によって存在しうることになります。
(8)修正案は全体的にメディア規制色が濃くなっています。放送法の自主規制規定に放送局が留意する条文も盛り込まれています。
資金が豊富なところには規制がゆるく、市民団体の広報やメディアの自主的報道には枠をはめていく。テレビなどに改憲反対番組を製作されたら困るという自民党の心配から規制色を強めることになりました。情報をいかにコントロールするかについて自民党案は腐心しています。
(9)憲法改正案の発議は「内容において関連する事項ごとに行なう」ことになっており、そのために条文ごとではなく、部分(まとまり)ごとに投票する方式となります。
これは民主党の主張をいれたものです。9条の改訂案については恐らく巧妙に目眩ましを盛り込み、国民を欺く内容に設定されるでしょう。例えば次のようなことが想定されます。
@「自衛軍を保持する」という規定を入れて、自衛隊は存在してもいいと思っている人々を賛成に回します。
A「集団的自衛権」をもつと規定して、米軍と一緒に海外での武力行使を行なえる規定を盛り込みます。多くの人々は、「集団的自衛権」という言葉の中味、つまり「国の自衛」だけでなく、米軍の要請に従って海外派兵でき、海外で武力を使えること。ついに人を殺す道を開かせてしまうということには思いいたらないかもしれません。政府は米軍の管轄下(指揮下)で行なうのだから、日本の軍隊が勝手に武力行使をしてしまうということはありえないから大丈夫だと説明するでしょう。しかし、現実に「米軍の管轄下」で何が起きているかは、極力、国民に知らせないようにしています。また、「米軍」の指令によって交戦をさせられることにもなります。
そして最後にB「国際貢献」という言葉を入れてきます。これは何とも甘い言葉です。日本も一国の平和に安住するのではなく、国際貢献しなければならないと言われれば、善意の人はそのとおりだと思うでしょう。しかしその「貢献」の中身が、外国に行って人を殺すことだという実態は一切言わないでしょう。地震や津波などの災害や復興支援に派遣するのだと説明するでしょう。この言葉の甘さにつられて、Aでどうしょうかと疑義を感じていた人たちも〇(賛成)を付けてしまうかもしれません。
「国を守る」ということと「国際貢献をする」ということ。どちらも大多数の人が賛成しやすい内容です。しかし、その言葉によって大きく括られて賛否を問われるのはどうでしょう。問題の本質に気づかないままに賛否を迫られる可能性もあり、またさまざまな意見や疑問が無視されてしまう危険性もあります。「国を守る」ことが、「人を守る」ことになるのか、「国際貢献」の中身はどのようなものであるべきなのか、まだまだ知るべきこと、考えるべきことがたくさんあるのに、それらが意図的に置き去りにされています。
(10)国民投票法は、交付の日から3年を経過した日から施行されることになっています。つまり、この法律が通ってから3年後に国民投票が行なわれるということになります。
その3年の間に、改正案の審議は国会の憲法特別委員会の舞台裏で静かに行なわれることになるでしょう。そして、3年後のある日、突然憲法「改正」案が発議され、2カ月後には投票へと、国民は追い立てられるように「決断」を迫られることになります。新聞の論説は、いつも「もっと議論を」といいかげんに書いていますが、そんな余裕はなく、反対・賛成の勉強をする時間もなく、自分が何に「賛成」しているのか吟味することもなく、強行姿勢の「空気」に流されていってしまいかねません。あるいは「よく分からないから」と棄権した結果、極端に低い投票率のまま、「国民の総意」が決定されることも考えられます。
(11)その他
@投票できる年齢は18歳以上です。
A国民投票法案は、憲法「改正」問題について規定しています。それ以外の国民投票については規定していません。
|