(2)長坂が全日本会員組合に送ったメールです( 3月29日付け)
全日本海員組合
組合長 藤澤洋二様
桜が色濃く咲き始めました。
未来を感じる季節です。
グリーンピースのエスペランサ号が日本での寄航に対して御組合が反対をしておられると聞き、メールをさせていただくことにしました。
私は、長坂寿久と申します。拓殖大学国際開発学部でNGO論を教える教員をしております。
大学に入る前はジェトロ(日本貿易振興機構)というところに30年程勤めておりました。
アムステルダム・ジェトロに駐在した折りにグリーンピースを知るとこととなり(ご承知のとおりグリーンピースの本部はアムステルダムにあります) 、 グリーンピースを知る者の一人としてメールを差し上げます。
グリーンピースは非暴力をしっかりと前提としているNGOです。テロ活動には真っ向から強く反対している団体です。
例えば、WTOのシアトル閣僚会議で激しいデモが行われ、一部暴力的になったことがありました。その際も、以後このような暴力的な事態になる恐れのあるデモには参加しない旨決定しています。従って、いうまでもなく、シーシェパードとは一切関係なく、むしろシーシェパードのような暴力的に近いと思われかねない行動は一切しないこと、およびそのような誤解をうけかねないので、シーシェパードとは交流しないことを方針としてきています。
この団体を管理するための基準の厳しさをグリーンピースは強くもっています。さもないと国際的な組織は管理できないからです。
グリーンピースがシーシェパートと関係があると誤解し、かつ誤報を流しているのは、世界の中で日本だけ(鯨類研究所と政府関係者だけ)なのです。非常に残念なことです。
グリーンピースが暴力的と日本で誤解されているのは、二つの理由があると思います。
一つは、問題を単に論じるだけでなく、その「現場」に行って、その現場から世界へ報道するという手法をグリーンピースはとっていることです。そのため核実験があるとその現場に行き、捕鯨があるとその現場に近付いて報道する。それによって世界の人々は問題を気付いてくれるという手法です。その姿が、日本の人々には過激と感じるようです。この点は、国際赤十字から分離して設立された「国境なき医師団」も同様の姿勢/手法をとっていますが、日本ではどういう訳かグリーンピースだけが過激という国民感情を与えてしまっています。
その理由が二つ目の理由となります。捕鯨との関係です。確かに捕鯨は日本人にとって戦後の食料難を救ってくれたこと、あるいは太地などの捕鯨の歴史など日本の文化や生活と非常に深い関係にあると思われてきました。その捕鯨に反対し、しかも捕鯨船を追跡してまで反対するグリーンピースは非常に過激という印象を与えたかもしれません。しかし、むしろ、それは日本の農水産省の意図的な広報によるものだったと思います。
現在では、すでに鯨の肉を食べなければならないほど日本は食料不足の状況にはありません。鯨の数が少なくなってしまったため、太地など日本の沿海に鯨が来なくなり観光産業としても打撃を受けています。
しかも、業界(水産業界)も捕鯨産業を持続しなれば生き残れないような状況ではなく、業界としてはむしろ捕鯨問題についてはすでに農水産省の面子を中心とする依怙地な姿勢に嫌気がさしており、捕鯨推進によって失う業界の国際協力姿勢へのダメッジの方が大きいと感じています。
グリーンピースは、90年代後半から、他のNGOもそうですが、「協働戦略」を(パートナーシップ戦略)を強くとっており、成功してきています。
協働戦略とは、政府や企業と対立するのではなく、協働して取組み、世の中(世界)を一緒によりよくして行こうという姿勢です。
1993年に決定した2000年のシドニー・オリンピックは、グリーンピース・オーストラリアが中心となって、オーストラリア・オリンピック委員会と協働として、
「グリーンゲーム」という環境対応型のオリンピックを造り上げました。1999年に国際オリンピック委員会は、環境問題については最初から環境NGOたちも参加した委員会を造り、環境ガイドラインを設定してオリンピックに取り組むという「グリーンゲーム」方式を、オリンピックの誘致条件にしました。その誘致条件による最初のオリンピック誘致が2008年の北京でした。北京も、この「最初からNGOも参加して環境対策を考える」という「グリーンゲーム」方式によって誘致に成功しました。中国にはすでに100万のNGOがあります。
また、グリーンピースは企業との協働も推進してきました。1995年にロッヤルダッチ・シャルとグリーンピースとはブレンドスパー油井をめぐって紛争状態になりますが、その経験を経て、グリーンピースは「協働」戦略の必要性や意味を痛感していくことになりますが、このブレンドスパー事件を通じて、企業とNGOの協働関係が構築されていき、以後「CSR(企業の社会的責任)」という新しい経営システム論が急速に理論化され形成されていくことになります。
現在のCSR論の形成は、グリーンピースと企業との協働が大きな意味をもって造り上げられてきたものです。
その点で、グリーンピースは政府や企業と一緒になって世の中(世界)をよりよくして行こうという国際NGOの一つとなっており、今では世界の企業が競ってグリーンピースとの協働関係を造り上げてきています。
しかし、残念ながら日本だけが世界の中の例外となっています。NGOと政府、NGOと企業は協働していく時代なのに、そのようにNGOは捉えられていません。その部分がまさに日本が世界から遅れている部分です。しかも、グリーンピースと御組合は、まさに国際的に見方同士であり、御組合の利益を守ることを共通の利益とする団体なのですが、日本ではそう思われていないようであることも実に残念です。
どうか、グリーンピースの実態について、あらゆる角度からお調べいただき、グリーンピースの正しい実態を踏まえて、エスペランザ号の問題に対処していただきたいと思う次第です。
どうか、日本政府とはいえ、一部の政府関係者の依怙地な面子や誤解や報道に惑わされることなく、事実を踏まえていただきたいと思う次第です。
どうか、御組合のような国際的にも日本を代表する組合が、グリーンピースを誤解のままに、エスペランサ号の寄航を拒否する中心的役割を果たし、それが契機となって、日本が国際的な批判をうけることになることがないよう願う次第です。
私たち日本人のNGO・NPOに対する理解の不足や偏見は、国際的にも残念なところです。
今や、どの政府も、どの企業も、どの市民も、NGOとの協働によって、世界をよりよくしていくべく取り組んでいる時代です。
以上申し述べた見解について、私自身が書いた論文などもありますので、お申しつけいただければお送りいたしますし、またいつでも喜んでご説明にお伺いいたします。
どうか誤解によって、日本を世界の批判に晒すような事態だけは避けたいと思う次第です。そんな思いでこのメールをお送りいたす次第です。
なお、冒頭に「エスペランサ号が日本での寄航に対して御組合が反対をしておられると聞き」と書きましたが、御組合に対して確認したわけではなく、これも私の早とちりかもしれません。そうなら赤面の至りです。このメールを通して、御組合のお考えを確認させていただければ幸甚に思います野で、御組合のお考えについてお教えいただければと思います。
長い文章を読んでいただきありがとうございます。
失礼いたします。
長坂寿久 拝
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