Vol.36 2007年3月12日号

NPOマネジメントに活かす知恵と技  第2回  大学の第三者評価 ふり返り、改善・改革をすること

                          
池内健治(産能短大教授)

キーワード・・・ 第三者評価、認証評価、組織の存在理由

 本年度、わたしの勤めている短期大学では第三者評価を受けた。そのために様々な制度や仕組みを見直す活動を行った。プロジェクトリーダーとして1年間の活動を振り返って所感を述べたい。昨今、企業の不祥事が報道されている。補助金の不正受給など大学でも組織の公正性が問われるようになっている。企業でもなく、行政でもない立場で教育を提供している大学・短期大学における評価を考えてみたい。NPOにも通じる問題があるのではないか。

1.設置基準の大綱化
 1991 年の大学設置基準の改正まで、教育研究の質の確保するために文部科学省(当時は文部省)は大学設置基準という規制を設けて、点検評価を行ってきた。20世紀も終わりに近づき、新しい時代に適合していくためには、各大学が独自性を発揮しなければならなくなった。国際競争にさらされる一方で、学生の多様化(大衆化)がすすみ、文部科学省の統制だけでは、質の維持が難しくなった。

 株式会社立の大学の設置が認められ、サイバー大学がスタートするなど、様々な形態の高等教育機関が現れている。小泉規制緩和路線を受けたものではあるが、大きな流れとしては文部科学省の政策の流れに沿ったものである。規制緩和によって様々な新しい試みがなされる一方で、大学教育の質を担保する方策として、自己点検評価が義務づけられ、相互評価も推奨されるようになっている。

 1998年には大学審議会が「 21世紀の大学像の今後の改革方策について」と題した答申を提出し、この中で「多元的な評価システム」の確立が提言されている。自己点検評価のみならず、大学相互の点検評価や、認証機関による第三者評価などの必要性を強調している。この答申以降、大学の評価がマスコミでも話題になり、さまざまな特集記事が組まれるようになっている。

 大学や学部の設置に関して事前に厳しい検査を行い教育の質を確保する方法から、多様な教育を認め設置の段階の検査よりも設置したあとの事後評価に移行したわけである。

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2.第三者評価のすすめ方
 大学の評価の観点も様々なものがある。財務体質を評価する「格付け機関による評価」、教育研究水準を評価する「国際的認証評価機関による評価」、既存の指標を組み合わせた「出版社などからの評価」、大学基準協会など認証評価機関による評価などがある。

 今回わたしの勤め先が受けた評価は、短期大学基準協会の基準による第三者評価である。次の10の領域にわたる総合的評価を自己点検・評価して、報告内容に対して第三者による評価を受けるというものである。評価基準は、評価領域、評価項目、評価の観点という三層構造になっていて、高等教育機関として短期大学の必要な水準を設定している。

  評価領域の構成
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T  建学の精神・教育理念、教育目的・教育目標

 目的の明確性、適合性 / 目的の短期大学構成員への周知、社会への公表

U 教育の内容

 教育課程 / 授業形態 / 授業内容 / 教育方法 / 教員、教育支援者等の資質向上を図るための取り組み

V 教育の実施体制

 教員の配置 / 教員の採用及び昇任等 / 教育支援者の配置 / 教育研究組織・教育課程に対応した施設・設備の整備 / 図書等資料の整備

W 教育目標の達成度と教育の効果

 成績評価 / 単位認定 / 卒業認定 / 卒業後評価

X 学生支援

 入学に関する支援 / 履修指導、学習支援 / 学生生活・就職等に関する支援 / 多様な学生に対する支援

Y 研究

 教育目的を達成するための研究活動 / 条件の整備

Z 社会的活動

 社会活動への取り組み / 国際交流・協力

[ 管理運営

 管理運営体制及び事務組織 / 人事管理

\ 財務

 財務運営の適切性 / 財務体質の健全性 / 教育研究組織・教育課程に対応した施設・設備の管理

] 改革・改善

向上・充実を図る体制 / 相互評価等への取り組み

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 評価に際して、ピア・レビューという考え方が強調されている。評価員が基準にもとづいて評価して適格かどうか認証評価することが趣旨であるが、そのプロセスを通じて教育研究機関としての水準を高めていくことに意味があるとしている。互いに対等の立場から、自己点検・評価報告書の内容を確認し、議論することによってよりよい教育研究組織のあり方を求めていくという考え方である。

 勤め先の短大でもプロジェクトを組んで、2年間にわたって認証評価基準に基づいて自己評価を行い、不足していた部分を補いながら教育研究組織を整備してきた。昨年認証評価を受けた。第三者の目で改めて自分の組織を評価し、その特性を理解することは意味深い作業であった。

3.所感
 教育研究機関として、もっとも重要なのは教育研究の内容と成果であり、それを組織的・多面的に評価して質の向上を実現できることである。管理運営、財務、組織などさまざまな観点から評価することに意味があるが、私立大学であるからにはその学校が設立された趣旨があり、それを実現できる組織体として存在するかどうかが、評価の根幹となる。

 評価とは、建学の精神に始まり、教育理念、教育目標、それが実現できる教育・研究組織が編成できているか、それを支える財政基盤がしっかりしているか、さらに将来に向けて改革・改善がなされる体制となっているかどうかを確認する作業である。日頃、暗黙の合意事項を、第三者の観点から言語化することで、組織としての強みや弱点も見えてくる。

 評価を受けるプロセスでわたしが最も印象深かったのは、われわれの短期大学がなぜ存在し、その存在価値を実現できているかという単純な疑問を持つことの重要性である。ともすると、日常の仕事に追われていて、その仕事がなぜ存在し、何のために働いているのかということを忘れている。もちろん、言葉として建学の精神や教育理念などは理解しているのだが、それが組織を透徹しているかどうか、具現化しているかどうかを組織の成員すべてに浸透させ、実現に向けてベクトルをあわせていくことは、泥臭い毎日の仕事に成否を左右するものが宿っていると感じた。

 最近不祥事を起こした企業すべてに、すばらしい企業理念が存在し、それを実現しようとして企業活動がなされているはずである。にもかかわらず様々な不祥事が発生するのは、理念は理念、現実は現実といった割り切ることで、一本の筋を通すことを忘れてしまった結果なのだろう。組織の延命が第一の目的になってしまい、組織の存在理由を問い直す作業が置き去りにされている。

 評価を受けるということは嫌なものだが、第三者の目であらためて自分の仕事を見直すきっかけにもつながり、それが改善・改革の基盤であると考えるようになった。

大学評価をめぐる動向

http://www.keinet.ne.jp/keinet/doc/keinet/jyohoshi/gl/toku0307/index.html

文部科学省 大学設置基準等の大綱化と自己評価

http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpad199101/hpad199101_2_150.html

短期大学基準協会

http://www.jaca.or.jp/index.html


 



 

 

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