4.9条2項の放棄へ向けての戦略
憲法改正案の発議は、衆議院と参議院がそれぞれ別々に行う。憲法については衆議院に先議権があるわけではない。両院で各々3分の2で採択されたものを、両院の合同委員会で調整され、最終的には一本化した両院調整案を両院が可決し、国民投票には一つの具体的な案によって国民の審判を受けることになる。
以下に9条2項の放棄を目立たせないようにするため、どのような隠れ蓑戦略を考えているか紹介する。
( 1 ) 国民投票に付される改正案は、関連テーマごとに個別投票方式とするか、一案(一括)方式とするかが問題となる。一案による明文改憲の方が分かりやすいからいいという案と、いくつかのテーマごとに個別に投票する案の方がいいと言う考え方とがある。
これは、国民投票で勝つためには、複雑過ぎては国民には分かりにくいので、できるだけ改正箇所を少なくすべしとする考え方と、本丸である9条を争点にしないよう、改正項目はある程度あった方がいいという考え方に基づいている。
( 2 ) 9条1項はそのまま残す方向にある。9条2項を放棄するのが改憲の究極の目的であるので、1項も削除してしまうと国民の反感を強めかねず、「現行の平和憲法を支持している」のだという説明に説得力を欠くことになりかねないため、敢えて残す。
ちなみに、9条の1項を変更する必要はないと考えている議員は80%近くいるとみられている。
( 3 ) 憲法の他の改正部分は、改憲派にとっては付け足しに過ぎず、9条2項放棄を達成するための目眩ましとして使われようとしている。何故なら、その他のことは議会の過半数で法律を導入すればそれで済むものがほとんどだからである。その他の改憲案については後述のとおりである。
( 4 ) 現在の9条2項を削除し、2項として新たに「自衛権」〔自衛のための戦力・交戦を認める〕を明示する。そして、自衛のための「実力組織」をもつことを明示する。この点が改憲の目的であり、改憲派の共通点である。この「実力組織」をどう呼ぶかという点では、「自衛軍」「防衛軍」「国防軍」等いろいろある。国防軍という名称は公明党が反対している。「自衛軍」という言葉がすでに巷間使われている。
( 5 ) 「集団的自衛権」も憲法に明示したいのだが、この点は改憲派内でも別れている。憲法の中に明示すべしとする議員と、改憲(国民投票)が成功すれば後は法律で定めればいいという人、さらに国民投票前に法律で解釈改憲してしまおうという考え方もある。9条を「改正」するためにあまり条件をつけない方が戦術的にいいと考えるからである。
安倍政権としては、集団的自衛権は、今年( 2007 年)秋の国会で『安全保障基本法』といったものを上程し、国民投票以前に採択(解釈改憲)し、決着しておこうと考えている。国会の採決は過半数であるから、現在の自民党は何でもできると考えているわけである。「憲法改正」をめぐる議論の中で、「集団自衛権」という余計な議論はしないですませたい。むしろ、現行憲法下ですでに集団自衛権は認められているのだというところから「改正」の必要を訴えた方が国民には分かり易いし、素直に改憲案を受け入れられるだろうと見ているのである。
( 6 ) 新9条には、第3項として、「国際貢献活動」(国際的活動)を行う旨も追加されるだろう。自衛のための軍隊を「国際貢献」という名目で海外派兵できるようにするためである。
すでに国際貢献の名目で、イラクなどに派兵されており、解釈改憲されてしまっているのだが、それを憲法に明示し、その上に立ってさらに自由に海外派兵できるための根拠としいのである。
( 7 ) もう一つ重要な点として、国際貢献のためとの海外派兵ができる要件として、民主党案は「国連安全保障理事会の決議による」という言葉を入れて歯止めとして担保したいと考えている。すでにイラク派兵しているのはこの改憲案をも逸脱していることになる。自民党は9条2項さえなくなれば、後は何とでも無限に解釈改憲が可能と考えているので、ともかく9条2項放棄を成功させるために、世論調査の動向によっては、この民主党案を受け入れることになる可能性がある。
その前に、憲法に明記はせず、政府はその見解をとるという解釈論の発言を自民党や首相が行ない、民主党を納得させ、憲法明記を避けようと努力してみるだろう。
( 8 )9条以外の点では、以下の点が「改正案」として議論されている。
@ 「環境権」と「プライバシー権」――現在の憲法にはこの2点について明確に規定されていないという理由で、挿入したいとしている。
A 「憲法改正条項」――現行憲法では、改正発議は議員の3分の2以上としているのは改正手続きとして厳しいとして、議員の過半数で発議権できるよう改定する案(自民党案)も出てくるかもしれない。
B 国民投票制度――憲法改正の国民投票以外に、国民の一定数の署名による申請に基づき国民投票が実施できるような制度の導入(一般法としての国政問題国民投票制度)を求める声がある。「諮問的国民投票制度」である。法的拘束力はないが、国会の過半数で発議できるという方式ではなく、国民の一定数(5〜10%)の署名で発議できる制度である。自民党は賛成していない。
C 「前文」の改定――9条の変更にともなって前文も同様に変更を行う必要がある。前文を検討する自民党の憲法部会には中曽根元首相など長老が多く入っており、俺が前文を書くのだとがんばっている
こうした改正案の調整はすでに自民・民主両党間ですでに意見交換が行われている。 |