7.「『九条』を世界へ、NGOネットワーク」へキャンペーンの展開について
『九条』の理念を世界に発信し、世界のNGOとネットワークを形成することによって、その理念を世界に広げ、世界の共有財産(国際公共財)としていく。それを確認するため、各国で「『九条』宣言」を行なうよう運動すると共に、国連で「『九条』国際公共財宣言」を行なうことを目指す、という日本発のキャンペーンを想定してみよう。
私たちは「『九条』を守る」という姿勢にとどまらず、『九条』を世界に発信し、国境を超えて世界の市民とネットワークを形成し、これを世界の共有財産(国際公共財)としていく積極的な姿勢をとっていくことが必要だと考える。
これまで『九条』について、日本の多くの団体や市民がこれを世界に訴え、『九条』の理念を世界の財産とすべく活動を行なってきています。しかし、依然『九条』の存在は世界に十分知らされるに至っているとは言えないし、『九条』をもつ国がすでにこの地球上に存在することの意味について注目する人々も多いとはいえません。
しかし、21世紀に入り、NGOの国境を超えたネットワークが世界の構造に大きな影響を与え、オルタナティブなもう一つの新しい構造を造り上げてきている実態に注目するとき、私たちは世界の市民・NGOと連携(ネットワーク)することによって、『九条』を世界の共有財産(国際公共財)とする可能性をもちえてきていると感じます。
また、こうした運動を行なうことが、まもなく明らかになる憲法“改正”の具体的かつ強力な動きを阻止しうる恐らく最も有力な手段となりうるのではないかと考えます。
そして、世界に不戦の誓いを求めるこのキャンペーンが、日本から発信される国際的な波及とインパクトをもち得るキャンペーンとなることを目指すものでもあります。
そして、このキャンペーンをGPPACの場を基盤としつつ、基本的にはGPPACにとらわれず、世界のNGOに対してキャンペーンを行なっていくことになるでしょう。
その際、いくつかの点を指摘しておきたいと思います。
(1) “『九条』全文 ( 1・2項共 )( の理念 ) に賛成・同意”することがネットワーク参加の条件となりますが、その際、「『九条』に賛成・同意」することのみを条件とし、それ以外のことは一切条件としないということ。「賛成・同意」の背景にあるさまざまな前提条件、考え方、例えば、自衛隊や日米安全保障条約の問題などへの姿勢は一切問わないという方針をとることです。
「九条を守ることに賛成」というピンポイント以外に条件をつけていくと、参加条件が厳しくなり、九条の賛成者は次々と脱落し、支持者を減らしていくだけになる恐れが起こりかねないからです。今直面している九条を喪失しかねないという問題には、多様な思いや価値観の人々の大同団結が必要だと思います。
NGOが国際キャンペーンを行なう時、3つ程のターゲットの設定の仕方があります。ICBLは対人地雷を「即時、例外なし、抜け穴なし」を参加条件としました。つまり、まさにターゲットはピンポイントです。CANは「環境」に関心のあるNGOなら誰でもいいという参加条件としました。非常に広範な参加条件です。そこで皆で集まって議論し、合意を得たもののみを要求項目としていきました。CICCは「国際刑事裁判所の設立に賛成」を参加条件にしました。どのような裁判所であるべきかその内容については集まって議論し、合意しつつ決めていく方式をとりました。CICCはICBLとCANの中間的ターゲットといえます。
九条の場合は、この点でCICC方式的なターゲットの設定の仕方となるのでしょうか。九条に賛成なら、その賛成理由は条件として問わないという方式がいいのではないかと考えます。
(2) 九条の国際アピールの仕方について、世界の人々に向かっての理論構築と理論の確認がさらに必要なのではないかと思います。この点について、馬奈木氏は、九条の議論は軍事力に代わるオルタナティブの手段を積極的に提示しているかと次のように問いかけています ( 注 6) 。
「平和を達成するための手段としての戦争放棄・戦力不保持という禁止規範の側面については、九条を国際的にアピールしようとする取り組みが成果もあって、近時、次第に国際的にも理解を広げつつあるが、アピール自体が禁止規範の側面を強調しすぎることもあり、軍事力に代わるオータナティブの手段を積極的に提示するまでに至っていない。」 ( この点へのトライアルのつもりで、私なりにこれまで 3 つの報告を書いてみたつもりなのです ) 。
また、現在のGPPACでは、「東北アジア地域以外との連携をどのように強めていくか」が課題だと指摘されています ( 注 7) 。現状では、九条は東北アジア地域の課題としてしか認識されていないように感じられるようです。
(3) GPPACジャパンの今後の運動展開として、GPPAC内での討議を通じた連携の強化だけでなく、まずは日本のNGO・NPOとの連携を図っていく努力、つまり日本のNGO・NPOに対して、この九条キャンペーンを理解してもらえるような展開を心がけるのがよいのではないかと私は思っています。そもそも日本のNGOの支持がなければ世界には広がらないでしょう。
また例えば日本のNGOの中でも本部を海外にもっているNGOに対しては、そのNGOジャパンを通じて本部に伝えてもらい、そしてそのNGO本部から世界ネットワークへ伝えていってもらうプロセスを想定することです。そのためには、NGO・NPOを対象に想定したテキストの作成と新しい取り組みが必要となっています。
(4) GPPACの展開に賛同してくれている政府として、例えば アイルランド、スウェーデン、ドイツなどの政府などの名があげられています ( 注 8) 。GPPACジャパンとしては、このキャンペーンの展開には、GPPACジャパンの主張に賛同してくれる政府を探し、協働していくプロセスも重要な取り組みプロジェクトとなります。これにはGPPAC本部 ( 欧州事務局 ) の基本的理解と支持が必要となるでしょう。欧州事務局との対話とロビー活動も重要だと思います。
前述したICBL、CAN、CICCなどのNGOの国際キャンペーンは、いずれもNGOの主張に賛同してくれる特定の政府 ( 国家 ) との協働によって達成・成功してきたのです。ICBLは、カナダ、オランダ等々の中核国 (Core Countries) と、CANは太平洋島嶼諸国 (AOSIS) や主な非産油国 ( グリーングループ ) と、CICCは設立に賛成する「志を同じくする諸国 (Like Minded Countries) 」と、それぞれ協働することによって達成してきました。国際条約の署名権は政府 ( 国家 ) にあるので、主張に賛成してくれる特定国政府との協働によって進めていくことを模索し続けなければなりません。
多くの尊い命を犠牲にして勝ち取ってきた平和憲法九条の世界への普及について、日本政府自身が世界のNGOとの協働国として期待できないのが何とも残念でなりません。
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