IT技術を生かした社会参加 第10回 メディア・リテラシー7
                          ‘デジタル化によって変化するプライバシーの状況’

                          
池内健治(産能短大教授)

キーワード・・・個人情報、住基ネット、e-文書法、e-JapanII、Google Maps

 メディア・リテラシーでは、著作権の一部に触れ、身近な情報マナーの観点で考えてきた。著作権をはじめとする知的財産権は、個人、組織(企業、教育機関、公的機関、コミュニティ)、国家・社会に影響を及ぼしている。社会の変革にかかわる大きな要素である。知的財産の全体的な知識とそれが個人にどのような影響を与えるのかを考えてみたい。今回は知的財産全体を俯瞰してみたい。

.個人情報保護法
 先日、時計のバンドの取り寄せ注文をしたときに、確認票に氏名、電話番号などを書き込んだ。受け取り票を渡しながら、店員が「電話番号は商品が到着したときに、お客さまへの連絡のためだけに使用します」といった。

 ムム、なんだかへんだと思った。これまで、こんな確認なんてなかったのに。やっぱり個人情報保護法が私たちの身近な法律として浸透してきたんだなって感じた。

 個人情報、プライバシーの問題はメディアリテラシーの重要なテーマである。今回は、個人情報について、e−文書法、住民基本台帳ネットワークシステム、民間セクターでの情報検索などとの関係から考えてみたい。

 今年の4月から施行された個人情報保護法は、1980年の プライバシー保護と個人データの国際流通についてのガイドラインに関するOECD(経済協力開発機構)理事会勧告からその必要性が強く認識されるようになった。

 1988年に、行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律が公布され、1999年に住宅基本台帳法に関する国会答弁で、総理が民間部門をも対象とした個人情報保護に関する法整備を含めたシステムを速やかに整えることなどを認識していると答えたときを契機に審議が進められた。

 高度情報通信社会推進、住民基本台帳法など行政ならびに民間の情報化の流れの中から、一連の施策として展開されてきたわけである。もちろん、個人情報を使った悪質な商法による被害、銀行カードからの個人情報流出など、さまざまな問題に対応するための法制度整備とも考えられる。しかし、ことはそんなに単純ではない。情報化への対応による行政の効率化など、一連の施策の一つととらえたほうがよい。

 では、個人情報保護法とはどんな法律なのだろうか。
本人が知らないうちに個人情報を流用されたり、個人情報を取り扱う事業者がずさんなデータ管理をして個人が被害を受けたりしないことを目的としている。以下の5つの原則がある。

 私が時計のベルトを取り寄せた際の店員の確認は、利用目的の明示、本人の了解といった原則に沿ったものだった。私の勤め先の短期大学でも、数年前にPマーク(プライバシーマーク)を取得して、全教職員が情報セキュリティに関する研修を受けた。個人情報の取り扱いルールも厳しく徹底するようになった。学生の成績、住所、個人カードなど。教授会に出てくる個人データは別紙となり、すべて回収するようにもなっている。

 Webサイトでも、ホームに個人情報に関する取り扱いのページのためのボタンをおいているサイトが増えている。NPOなどでも、名簿や個人情報を取り扱うことが多い。個人情報の取り扱いについては、事業者としてのルールづくりが必要になる。同時に、ルールを守るための方策や構成員全員が個人情報管理に関心をもつべきである。
国の政策に関しては次のサイトが参考になる。


首相官邸: http://www.kantei.go.jp/jp/it/privacy/houseika/hourituan/

個人情報保護に関する法律に関する政策: http://www5.cao.go.jp/seikatsu/kojin/index.html

 この法律の検討過程で、メディアとの論争があり、どこまで個人情報をのせてよいかということが議論になっている。とくに、インターネットで個人情報の名前や情報を扱えなくなると、インターネット自体が機能しなくなるといった議論もあった。その一例として経済産業研究所の2002年当時の政策シンポジウムの記録をみていただきたい。

http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/02101501.html

 

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2.住民基本台帳ネットワークシステム(以下 住基ネット)
 上述の通り、個人情報保護法の検討が住民基本台帳法の議論の答弁を契機に公の議論となった。このことからも、国の方針として、住基ネットの基盤整備として個人情報保護法を位置づけることもできる。

  総務省のねらいは、表向きは行政の効率化をうたっている。公務員の多くは、情報管理を仕事としているといってもよい。情報化による効率化を考えた場合、住基ネットは欠かせないものと総務省は訴えている。

 総務省は、住基ネットの目的は「高度情報化社会に対応して住民の利便の増進及び国・地方公共団体の行政の合理化に資する( 住民基本台帳法の一部改正案について 旧自治省鈴木行政局長)ため」としている。

  具体的には「各種行政の基礎であり、住民の居住関係を公的に証明する住民基本台帳のネットワーク化を図り、本人確認情報(氏名・住所・性別・生年月日の4情報、住民票コード及び付随情報)により、全国共通の本人確認ができる仕組みを構築しようとするもの」( 改正住民基本台帳法の成立について 旧自治省中川行政局長)であるとしている。
  高度情報化社会に対応した住基ネットの期待効果として次の点をあげている。

(1) 住民基本台帳事務の効率化
   ◎ 住民票の写しの広域交付
   ◎ 転入転出の特例
(2) 国の機関等(16省庁92事務)への本人確認情報の提供
(3) 住民基本台帳カード ( IC カード)の活用

参考: http://www.jj-souko.com/elocalgov/contents/c1011.html

 もともと、自治体や国のシステムはそれらを統合して運用することを想定せず、個々の業務の効率化のために開発してきたという経緯がある。氏名や住所などさまざまなデータコードの統一化がはかられていない。そのため、現段階では相互にデータをやりとりするのは、コードの変換などかなりのコストがかかるのが現状である。

  ただし、今後住基ネットを前提にシステム導入を行っていくことも予想される。その場合、名寄せすることによって、さまざまに分散した個人情報が一挙に一覧となる。年金データののぞき見事件が社会保険庁で問題となったが、何らかの意図をもって情報を集めるということも可能になる。
  この場合、高度情報化社会は高度管理社会となる危険性をはらんでいるのである。

 3.e−文書法 (通称で電子文書法ともよぶ)
 e−文書法とは、民間企業に紙での保存が義務付けられている財務や税務関連の書類・帳票を、電子データとして保存することを認める法律の通称である。正式名称は、「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」及び「同法施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」である。

 政府の「 e-Japan 戦略 II 加速化パッケージ」という政策で掲げられた重点分野の一つで、2005年4月1日から施行された。複数の省庁にまたがる200を越える法律のうち、一部の例外を除き一括して電子文書での保存が可能になる。紙データをスキャナで読み取った文書も電子文書の対象となる。
 現在はPDFというファイル形式が標準である。スキャンしたあとテキスト変換を行うと、紙データの文字がテキストとしてデータに記録される。そのため、検索する場合テキストデータを検索することによって、すぐに必要なデータを取り出すことができる。

  電子データは改竄される危険性があるので、原本であるという原本保証のしくみや、タイムスタンプという作成日を記録することが必要になる。スキャナや文書管理ソフト、PDF作成ソフトにはe−文書法対応をうたったものが販売されている。

  この法律は民間企業を対象としたものであるが、自治体に対しても同様の動きがある。行政機関が文書を電子化するメリットは、行政機関の電子データ化でだけでは不十分である。情報交換の相手である、民間企業の電子データ化が実現できてその成果を享受できる。そのために、官民が一体となって電子化に取り組んでいくことが政策となっている。

 行政機関の効率化という点では、住基ネットとその目的は同じである。それぞれのシステムが一貫して動くとことによって、大きな成果があがるはずである。

  これによって、電子データ化のための新しい産業分野の育成も政府はねらっている。日立、東芝、富士通、NEC、外資も含めて多くの企業がこの動きに対応している。

参考: http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/06/s0624-5a.html

 4.民間セクター
  これまでみてきた、個人情報保護法、住基ネット、 e- 文書法は情報化社会に対応する行政機関をめざして、国が総力をあげて実現してきたものである。では、民間はどのようになっているのだろうか。

 携帯電話はどうしてつながるのだろうか。相手がどこにいても、電波を送って信号を伝えることができる。数多くのアンテナが立っていて、そのアンテナの捕捉する範囲が定められている。携帯電話は弱い電波を発して、自分の近くのアンテナに自分の位置を知らせている。

 携帯電話会社では、そのデータを集めてデータベースで管理している。どの番号の携帯電話がどこにあるか、データベースで管理しているわけである。電話がかかるとその近くのアンテナを経由して相手の携帯に信号を送って通話が可能になる。

 携帯電話のデータベースには、どの携帯電話が現在どこにあるかというデータが蓄積されている。しかも、刻々と動く携帯電話を捕捉して、情報を書き換えて保管しているのである。究極の個人データといってもよい。

 一方で、車のカーナビは自分の位置を通信衛星と更新して確認している。このGPSのデータを使って、GoogleはGoogle Mapsというサービスをアメリカでスタートした。アメリカ本土、カナダの地図で場所を特定して、画面を切り替えると一番拡大したときには、車が小さい点にみえる。ビバリーヒルズの豪邸のプールが青く見える。

Google Maps : http://maps.google.com/

 

 インターネットにつながるコンピュータから誰でも利用できるサービスである。この1ヶ月アメリカのコンピュータユーザーは Google Maps に熱狂した( Wired 紙)。 Yahoo も追随して、同様のサービスをスタートすると報道されている。      

 

WiredのWebサイトに乗ったGoogle Earthのサンプル http://www.wired.com/news/images/manual/68042_googlemaps2.html

  あらゆるところで、さまざまなデータが活用され、今まで考えられなかったサービスが提供されるようになっている。個々の情報が名寄せ(個人の名前や ID をキーにして情報を集めること)すると、誰がどこにいて、今どの車に乗ってどこに行こうとしているか管理することが可能になっている。

 このように技術がどんどん進む中で、それを私たちの生活を豊かに実り多いものとして活用するためには、私たちの新しい知恵が求められている。まさにメディアリテラシーによって、情報化社会を切り開いていくことが必要である。

 多様な議論が認められ、その中から新しい社会を生み出していく、そのようなスキルや態度、知識の総体がメディアリテラシーであるともいえよう。

 


 



 

 

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