1.
ワークショップのその後
地区住民に呼びかけて実施した公園のプランづくりワークショップ(前回記載)も半年かけて無事終了した。その結果、住民達の公園に対する愛着は人一倍強いものになっていた。自分達だけのオリジナル公園という思いなのであろう。公園ワークショップの最終日、一つ嬉しいことがあった。
今回参加していた建築士会のメンバーからこのような提案がなされた。
「半年間このワークショップに参加させていただいて、住民のみなさんの熱心な討議に感銘を受けました。今回決まった公園のプランの中にはトイレや東屋が設置されることになっていますが、これは我々の得意とする分野です。もしよければこのトイレと東屋を建築士会に考えさせていただけないでしょうか」
住民達はこの申し出を快諾したことは言うまでもない。
建築士会の動きは早かった。ネットのホームページでメンバーを公募。集まった若手建築家10名余りが中心になって、建築士会内部での「公衆トイレ・東屋ワークショップ」が始まった。
筆者はこの後、建築士会と住民と行政内部との意見調整に明け暮れることになる。
地区住民の願い、設計集団の思い、そして維持管理をしていく行政の意見が合意しなければ、それは絵に描いた餅になってしまうからだ。
住民達に設計を宣言してから8ヶ月、建築士会としても何度も検討を重ね、行政の了解を得た上で、ようやくプランを住民に披露する日がやって来た。この案に住民の意見を少し加味してもらうつもりであった。自信満々で望んだトイレ・東屋ワークショップで私は貴重な体験をすることになる。
前回の公園ワークショップでこの手法の楽しさを学習した住民達は中々手強かった。自分達が本当にほしいものをつぶやきから意見として声に出して発表し始めた。内容もしっかりしている。この結果、トイレ案は了承されたが東屋案は地区住民の望んでいるものとは少し違うということで、再考を余儀なくされた。
いかにすばらしいものを提示しても、住民のニーズに合っていなければなにもならない。地区住民の意向を十分理解していると思い込んでいたことが、いかにいい加減であったかを筆者を含め建築家達も痛切に思い知らされた一幕であった。
再度検討した結果、住民達の前で宣言してから約1年の歳月を要して、ようやくトイレ・東屋の青写真が決定した。児童公園の施設としては前例の無い、街並みに調和したすばらしいものが出来上がったのである。
このワークショップに参加した若手建築家はこう振り返っている。
「ものすごく貴重な体験が出来、大変勉強になりました。いろんな人の意見を聞きながら物をつくっていくことの大切さと喜びをこのワークショップを通じて教えてもらいました」
小さな村の小さなまちづくりが、さざ波となって次第に大きな波紋を広げていった。 |