「南」の世界拾い読み 第16回

 このコーナーは、主に南の国々(開発途上国)のメディアやNGO/NPOで流されている情報を中心に独断で選んで、そのサマリーをコメントをつけて紹介していきます。情報の詳細を知りたい場合は、併記のホームページにアクセスしてください。
 今回は、遺伝子組換え作物 (GM 作物 ) についての記事を取り上げた。遺伝子組換え作物に関しては、食の安全性という視点から問題にする場合が日本では多いが、世界的には食の安全だけでなく、農家にとっては収益性、食料援助国にとっては国際的な力関係の綱引きという問題も抱えている。(本田真智子  ( 特非 ) NPO研修・情報センター常務理事)

1. アフリカ人が立ち上がり、遺伝子組換え食品にノーというべき時間だ
Conned With Corn
http://allafrica.com/stories/200505160448.html

Lagos (ナイジェリア) 食糧援助や増産の大義名文にして、アフリカは現在遺伝子組み換え作物を受け入れるように圧力が強まっている。それは2002年の南部アフリカの飢饉の際のザンビアに対する食糧援助で、遺伝子組み換えメイズの受け入れに関する交渉でも明らかだ。アフリカの食料危機に大作の最終手段として遺伝子組み換え食品は国連などでも注目され、アフリカのリーダーも緑の革命のように乗り遅れまいとしている。しかし、緑の革命は化学薬品の使用の増加と設備投資に資金がかかりすぎるという結果で、いくつかの地域では食料が増産したが、小規模農民は排除され、飢餓の割合は増加してしまった。遺伝子組み換え食品は安全性、環境への影響などにも不安がある。しかし、援助する国が力を持っているために、アフリカは結果的に受け入れざるを得ないかもしれない。どこに住み、どんな作物を植付け、何を食べるか選択する権利は我々にあるのだ。
( all Africa.com より)

2. 従来の作物よりも生産的ではないと立証したインドの農民が、 GM 作物に対しての小さな戦いに勝った
ENVIRONMENT: Indian Farmers Win Battle Against GM Cotton
http://www.ipsnews.net/news.asp?idnews=28812

London (イギリス) インドの NGO が過去3年間、モンサント社の BT コットン(遺伝子組み換えコットン =GM コットンの一種)の系統的な研究を行い、従来のコットンよりも生産的でないと立証した。従来のコットンの方が、 BT コットンよりも60%生産が多かったという。また、GMコットンのディーラーは農民に農薬と肥料を種子と共にパッケージで買わせたが、通常の種子よりも高いために、ディーラーは大きな手数料を稼いでいる。一方、農民は高価な種子と生産性の低下による損失に苦しんでいる。インドでGM作物が禁止になったのは初めてである。これは、小さな勝利であるが、世界の農民や市民団体にとって大きな勝利である。 ( IPS “ INTER PRESS SERVICE NEWS AGENCY ” より)

3. バイオテクノロジーが進む世界でどのような方針で生きるのか
Biotechnology consultation ends in Dakar
http://web.idrc.ca/fr/ev-69087-201-1-DO_TOPIC.html

Dakar( セネガル )  ダカールで開催されたコンサルテーションでは、アフリカがますます競争が厳しくなる世界で、持続可能な開発を達成しようとする場合に、バイオテクノロジーの研究に遅れる余裕はない。バイオテクノロジーと遺伝子組み換え食品は関係がないことを、コンサルテーションのなかでは説明された。技術が慣れている実際的な多くの例があり、農業の増強や人間と動物の健康の増進に役立つ。例えば、マラリアやHIV/AIDSなどにだ。
 私たちがしなければならないのは、他の地域で開発されたバイオテクノロジーの消費者から逃れるために、独自のバイオテクノロジーを開発することである。 ( IDRC より)

コメント  2002年に南部アフリカの旱魃による飢饉に対して、食糧援助が米国を中心に行われた。その際、米国産の遺伝子組み換えメイズ(トウモロコシ)が送られるということで、被援助国であるザンビアやジンバブウェなどの政府、市民、また私たちNGOは大きく反対した。自分たちが安全性に不安があるというものを、飢餓に苦しんでいる人たちに対して提供するなんて、そういうことでいいんだろうか。危機に瀕している人たちに対して自分たちがいらないもの、安全性に疑問があるものを提供することに対して、私はその心根の貧しさにぞっとした。たとえ私たちが健康に害があるものを食べても、彼らには安全性の高いものを提供して、危機を乗り切ってもらう一助にすべきではないか。

 日本では遺伝子組み換え食品や作物はもっぱら食の安全性を問題にされることが多いが、問題はそれだけではない。1.の記事にあるように、食料援助国と被援助国の力関係と、援助にGM作物を入れることで、結果としてその後も被援助国でGM作物を使わざるを得ない状況を作り出すこと。自分たちが何を栽培し、何を食べるかの権利をはく奪されるという、基本的な人権の問題もある。

  2.の記事のように、緑の革命が結果的に田畑を疲弊したことや、農業の投入資金が上がったこと、小農が農地を手放さなければいけなくなったように、遺伝子組み換え作物が種子メーカーの言うような収益を上げないことや、一度遺伝子組み換え作物を植えると種子メーカーにその後も支配されてしまうということなどの問題もある(「GM(遺伝子組み換え)汚染―多国籍企業モンサントと闘うシュマイザーさんからの警鐘」(天笠啓祐編著、遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン発行)に、メーカーと農民の関係が詳しい)。

 遺伝子組み換え作物に関しては、多様な問題と、南北のパワーバランスの問題がある。そのため、この分野では北の支配を逃れたいという南の国々や研究者の取り組みがある。しかし、私は南の国々の開発したGMだからといって、OKともいえない。遺伝子を組み換えるというのは、地球全体に対し大きな影響をもち、未来に対しての負債になるかもしれないのだ。

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