上記2草案が主管部門制廃止を要求しているのに対し、北京大版はその維持を示した。草案を説明した陳金羅は民政省民間組織管理局の前身社団管理司の元司長、1989年版「社会団体登記管理条例」の立役者である。当時は87年に党と政治を分離させる「党政分離」の方針が打ち出された後、天安門事件まで続く民主的な空気の一方、インフレ、役人ブローカー、汚職などが問題となっていた。社会団体はといえば文革で民政部が閉鎖されてから無政府状態、役所の外郭団体が乱立していた。旧来の党の助手としての社会団体と、結社の自由を行使し、新たな社会ニーズに応えていく自立した団体、2つの混交点で社会団体制度の秩序化を模索していた人物である。98年版条例(現行条例)に対しては、敷居が高すぎると感じた。現場をよく知る老教授は、枠の中でいかに役所が受け入れやすい形を提示するかを説明した。地方やコミュニティレベルの小さな団体は登録のみとして組織の多様化を図るべきだと強調する。
一方、民政省は主管部門の権限を弱めているが、現実は相変わらず社団に対する管理・干渉が大きい状況を指摘し、主管部門廃止を急ぐよりも「実」の整備を訴えた。“役人なまり ”の発言の中に、時折「指導思想」という語が聞こえ、若い参加者からは「超保守的」との感想がもれたが、非営利セクター創世記を知る人間には、陳の発言は実感あるものであったに違いない。社科院呉玉章も清華大王名も体制移行の様々な局面を体験してきた世代、陳に敬意を払いつつ、社会の意思を共同で政府側に積極的に提案していくことが重要と総括した。
中国の民間組織の発展は、社会、政府双方からの認知獲得のプロセスであると言われている。草の根NGOの発展は環境分野から始まった。環境、市民社会との共生を要求する「グリーンオリンピック」招致活動を大きなきっかけとして、政府の環境団体への態度は、規制→無視→協働へと少しずつ変化している。外圧は政府と民間組織との関係をプラスへ向かわせ、「緑家園」や「自然之友」など多くのメディア関係者が環境団体の発起人や会員となっていることも社会的認知にプラスに働いた。前々回に「新世代組織」として紹介した「協作者」と「恵澤人」は両者とも「企業」として登録している草の根団体であるが、別の理由から政府が接近している。
農村からの出稼ぎ労働者の問題は中国の抱える「三農問題」※1 の一側面として社会不安の起爆剤となりえる可能性もある。農業省、労働・社会保障省などの官僚が「協作者」の主催する会議に積極的に出席している姿がみられる。「草の根」から最も遠い存在の1つである公安当局が、住民の社会参加を啓発する「恵澤人」の活動に好意的になってきている。官の思考をプラス方向へ向かわせる圧力は「外圧」から「国内治安」へと移ってきているようだ。
法制度をめぐるALL民間組織と政府との関係、個々の課題をめぐるアクターとしての両者の関係、プラス方向への相乗効果が期待できるのか否か、今春の条例公布が楽しみである。
|