和歌山市を彩る結晶片岩 (和歌山県和歌山市) 結晶片岩は和歌山城の石垣をはじめ、市内のいろいろなところで、敷石や石垣・石段などに使われています。 和歌山市の街を歩くと、大地をつくるこの石がこの地の景観をつくり文化をつくっていると実感します。 結晶片岩は、原岩の違いや変成の強さによってふくまれる鉱物の種類や鉱物の並び方に違いができます。 市内のあちこちに見られる結晶片岩の色や縞模様の変化を楽しみながら、街の中を歩きました。 ここでは、「紀三井寺」、「紀州東照宮」、「和歌浦天満宮」、「蓬莱岩」の4ヵ所を紹介します。 結晶片岩の中でも、玄武岩質の岩石を原岩とするものは緑色片岩になります。このあたりの緑色片岩は、「紀州青石」と呼ばれてきました。 上の写真は、番所庭園から見た三波川結晶片岩の岸壁です。夕日が、緑色の「紀州青石」をオレンジ色に染めていました。 1.紀三井寺 まずは、紀三井寺の石垣です。このお城のように高く立派な石垣は、ほとんど結晶片岩でできています。結晶片岩には、片理に沿って平たく割れやすい性質があります。この石垣は、平たい石を水平に積み上げてつくられているのです。
下の図が和歌山市周辺の地質図です。 平野には、紀の川によって運び込まれた砂や泥が広く堆積しています(沖積平野堆積物)。山地部に見られる黄緑色の部分が、三波川帯の結晶片岩です。 三波川帯は、九州西部から関東山地まで断続的に追跡されます。西日本では、四国の中央部から、淡路島の南に浮かぶ沼島を通って、ここ和歌山県北部に続いています。
三波川帯の変成岩は、白亜紀後期の付加体が低温高圧型の変成作用を受けてできたものです。 ここで、少し三波川変成岩がどのようできたのかをお話しします。 海洋プレートの上にたまった堆積物やプレート上部の玄武岩は、海洋プレートが沈み込むときに、プレートから引きはがされて大陸プレートの端に付け加わります。これが、付加体です。 付加体の一部は、沈み込むプレートとともに、さらに地下深くまで引き込まれます。地下深くでは、強い圧力がかかり、引き込まれた付加体は低温高圧型の変成作用を受けます。 このようにしてできたのが三波川帯の変成岩です。 その後、地下深くでできた変成岩が、現在の位置まで上昇してきました。上昇するのには断層運動が関わっていると思われますが、その過程にはさまざまな考えがあって、今も議論されています。 下の2枚の写真は、紀三井寺の石垣の結晶片岩です。 結晶片岩は、変成作用によってできた平たい鉱物が平行に並び、この面に沿って割れやすくなっています(片理)。 また、数種類の鉱物が集まって層をつくりやすく、薄い層が縞模様をつくって重なっています(縞状構造)。
紀三井寺の石垣の結晶片岩の多くは、緑色片岩です。 濃い緑色の部分は、緑泥石が多く集まっています(緑泥石片岩)。ウグイス色の部分は、緑れん石が多く集まった部分です(緑れん石片岩)。 緑色片岩が風化して酸化鉄が浮き出し、茶色になっているものもあります。 緑色片岩以外では、泥質片岩も少しふくまれています。細かく褶曲した泥質片岩が見られました。 石垣の間の石段には、花崗岩(一部は砂岩)が使われています。 仏殿の展望回廊に上ると、海がよく見えました。手前に片男波の砂州、そこから和歌の浦の海岸がぐるりと湾をつくっています。 波早崎の向こうにかすむ島影は沼島です。三波川帯の結晶片岩は、沼島からここまでずっと続いているのです。
2.紀州東照宮 次に、和歌の浦にも近い権現山の中腹に建つ紀州東照宮を訪れました。
参道を過ぎ、108段の侍坂を登っていきます。この石段は砂岩でできています。 石段の横には石灯篭が並んでいますが、その下には結晶片岩の露頭が出ていました。 黒っぽい泥質片岩が主で、砂質片岩や緑色片岩がはさまれています。紀州東照宮の建つ権現山は、三波川変成岩でできているのです。
石段を上ると、楼門が立っています。楼門の下には、砂岩が使われていました。 この砂岩も、石材として和歌山市でよく使われています。中粒の均質な砂岩で、白亜紀後期の和泉層群の砂岩です。
3.和歌浦天満宮 次は、和歌浦天満宮です。和歌浦天満宮は、紀州東照宮のすぐとなり、天神山の中腹にあります。 鳥居をくぐると、石垣の上に朱塗りの楼門と両脇の回廊がそびえていました。 石垣も、楼門に続く石段も、結晶片岩を見事に積み上げてつくられています。三波川帯にある和歌山市ならではの景観です。
鳥居をくぐると参道。参道の敷石には、ウグイス色の緑れん石片岩が多く使われています。 石段はとても急で、山登りをしているようです。 石段も平らに割れた面を上にして積み上げられていますが、その面に細かな凹凸や起伏があるので、滑りにくくなっています。
楼門で振り返ると、街並みや御手洗池を囲む木立の向こうに和歌の浦の海が広がっていました。和歌浦湾の左端には、片男波の松林が海の青の中に緑のラインを引いています。 楼門をくぐり、境内に入りました。 敷石には、黒っぽい色をした泥質片岩が多くなりました。赤紫色の紅れん石片岩も見ることができました。
4.和歌の浦の海岸と蓬莱岩 和歌浦漁港の「おっとと広場」に車を止め、そこから海岸の遊歩道を歩きました。万葉歌人にも歌われた風光明媚な和歌の浦の海岸です。 海岸には、ずっと三波川帯の結晶片岩が続いていました。 海岸の結晶片岩は、泥質片岩を主体としています。泥質片岩の中に、砂質片岩や珪質片岩がはさまれています。また、緑色片岩も見られました。石英脈が、ところどころに入りこんでいます。 結晶片岩には、発達した片理や、細かい褶曲を見ることができました。
青い海を見ながら海岸を歩いていくと、蓬莱岩が現れました。先客がいて、岩に登ったり、下から写真を撮ったりして楽しそうです。
蓬莱岩は、浜辺から海に向かって立っていました。長い年月の風化に耐えている岩の姿です。中ほどに、波の侵食によってできた大きな穴(海食洞門)が開いています。 蓬莱岩は、砂質片岩と泥質片岩の互層でできています。そこに、珪質片岩の層がはさまれていたり、緑色片岩の部分もあったりして複雑です。石英脈も見られます。
海食洞門の横には、橋が架けられていてその先に行くことができます。 裏に回ってみると、風化した結晶片岩の表面にだ円形の穴がたくさん開いています。岩の表面は白っぽくなって、すかすかした感じがします。 このハチの巣状の穴は、海岸の岩盤などでよく見られるもので、「タフォニ」と呼ばれています。 タフォニは、岩にしみ込んだ海水が蒸発するとき、海水にふくまれていた石膏などの結晶が成長し、岩石をもろくしていくことでつくられます。
浜辺には、小石がたくさん落ちていました。 露頭の岩石は風化していますが、この小石なら新鮮なものがたくさん拾えます。しばらくの間、時の経つのを忘れて石を拾い集めました。
小石の多くが、緑色片岩や泥質片岩などの結晶片岩ですが、中には砂岩や泥岩などの堆積岩も混じっていました。 露頭の岩石は風化していますが、この小石なら新鮮なものがたくさん拾えます。しばらくの間、時の経つのを忘れて石を拾い集めました。 下の写真で、 1は、緑色片岩です。 白雲母や緑泥石が光を反射してキラキラしています。濃い緑色に部分は緑泥石や角閃石が多く、緑れん石が多くなるとウグイス色になります。 2は、泥質片岩です。 石英や長石の多い白い層と石墨や黒雲母の多い層が縞模様をつくっています(縞状構造)。全体的に白雲母がふくまれていて、キラキラしています。 3は、砂質片岩です。 石英や長石の多い白い石です。石が薄いのは片理が発達しているためで、白雲母がつややかに光っています。 4は、紅れん石片岩です。 紅れん石特有の赤紫色をしています。片理が見られ、白雲母が光っています。 5は、珪質片岩です。 ほとんど石英でできています。石英脈の石英とちがって、片理が発達し、泥質片岩の薄層をはさんでいるものもありました。 6は、砂岩です。 灰色や褐色のものが見られました。写真の白いものは、凝灰質砂岩です。 7は、泥岩です。 黒い泥岩です。表面はみがかれて、つやがあります。 8は、チャートです。 赤色や緑色のチャートが見られました。赤いチャートには、小さくて丸い放散虫の化石がルーペでも確認できました。 9は、溶結凝灰岩です。 石英と長石の結晶片をふくみ、軽石が押しつぶされたレンズ(本質レンズ)が見られます。
■岩石地質■ 白亜紀後期 三波川帯結晶片岩 |