豊岡市の松脂岩・真珠岩  (豊岡市森津)

 豊岡市森津に黒色のガラス質火山岩が産出します。この露頭はよく知られていて、「豊岡市福田の黒曜石」として論文やSNSなどで取り上げられています。
 しかし、露頭の位置は福田ではなく、福田から森津に入ったところにあります。岩石は、「黒曜石」とするにはちょっと無理があって、「松脂岩」に分類されるものです。また、この松脂岩の表面(風化面)は「真珠岩」に変化しています。
 
豊岡市森津の松脂岩の破片
(とがって割れるが表面は凹凸に富み、松脂光沢がある)
 
 現地を兵庫県立大学の原田正信さんに案内していただきました。また、松内ミネラルコレクションの松内茂さんに、典型的な黒曜石・松脂岩・真珠岩の標本を見せていただきました。

1.松脂岩の産出する地層

 円川の支流、大浜川に沿った道路沿いの崖に、松脂岩の露頭があります。豊岡市街から北西へ向かう国道178号線が、最初に大浜川を横切るその手前が露頭への道路の入口です。
 入口から200mほど進むと道路の南側が崩れて、ガードレールの向こうに高さ10mほどの崖が現れます。ここには北但層群豊岡層の流紋岩が分布していますが、その中に松脂岩の岩脈が入っています。

松脂岩の見られる崖

 下に、松脂岩露頭の位置と周辺の地質を示します。北但層群の層序については再検討が進められていますが、ここでは『20万分の1図福「鳥取」(1974、地質調査所)』にしたがっています。

松脂岩露頭の周辺の地質 日本シームレス地質図V2(GSJ、AIST)を利用して作成

 a  沖積層
 B  玄武洞溶岩 かんらん石玄武岩
 Ta 照来層群 寺田安山岩(安山岩凝灰角礫岩および溶岩)
 Hp 北但層群 豊岡層 流紋岩〜デイサイト凝灰角礫岩および凝灰岩(泥岩を伴う)
 Hc 北但層群 豊岡層 礫岩および砂岩
 Hy 北但層群 八鹿層 安山岩質凝灰角礫岩・玄武岩および流紋岩溶岩(泥岩を伴う)
 G  宮津花崗岩 粗粒角閃石黒雲母花崗岩


 この崖は、急傾斜ながら上部から崩れてきた砂や泥、粘土でおおわれています。また、薄い表土に草木が根を張っていて観察しやすいとは言えませんが、それでも流紋岩の中に松脂岩の岩脈を数mにわたって追跡することができました。
 流紋岩は、全体的に風化が進んでいますが、その中にブロック状に新鮮な部分が残されています。流紋岩は、少量の石英の斑晶をふくみ流理による縞模様が顕著です。乳白色のオパル、あるいは玉髄で満たされた球顆が観察できます。

流紋岩

  松脂岩は流紋岩の中に、厚さ2.0〜2.5mの岩脈として産出しています。表面は風化によって白っぽい真珠岩に変化していますが、ハンマーで割ってみると真っ黒な松脂岩が顔を出します。不規則な方向にややとがって割れ、割れた面は松脂光沢を示します。

松脂岩の露頭

 松脂岩には流理と考えられる縞模様が見えるところもあります。この流理は、地表に表れて真珠岩に変化しているところが強調されて観察されます。

松脂岩の露頭の表面に表れた流理

  流紋岩と松脂岩の境界は、地表ではほぼ直線状です。表土に隠されたり崩れていたりして地下へどのように続くのか明確にはわかりませんが、境界面は垂直に近いように見えます。
 下の写真で示した岩脈の上にも流紋岩をはさんでもう一本の松脂岩脈が観察できました。

松脂岩岩脈(2本の赤い破線の間) 流紋岩(左)と松脂岩(右)の境界

2.黒曜石?真珠岩?松脂岩?

 黒曜石(こくようせき)・真珠岩(しんじゅがん)・松脂岩(しょうしがん)は、どれも流紋岩質のマグマが急冷されたために結晶がほとんどできていないガラス質の岩石です。これらの岩石は見た目がちがいますが、そのちがいはふくまれている水の量に関連しています。

黒曜石(obsidian) 黒曜岩ともいう。ガラス光沢があって貝殻状に割れ、透明感がある。流理構造のあるものがある。黒色が普通だが、赤色や緑色を帯びていることもある。水は1%以下。
黒曜石(北海道遠軽町白滝)
松内ミネラルコレクション標本
黒曜石(大分県姫島)
松内ミネラルコレクション標本
   
真珠岩(perlite) 真珠か絹糸のような光沢があって、多くの同心円状〜渦巻状の構造(真珠状構造)がある。もろく砕けやすい。水は4%以下。
 
松脂岩(pitchstone) アスファルトや松やにのような独特の光沢(松脂光沢)があって、もろくばらけるように割れ、割った面は細かい凹凸に富んでいる。水は1〜10%、通常5%以上。
真珠岩(兵庫県香美町小代)
松内ミネラルコレクション標本
松脂岩(兵庫県豊岡市竹野町林)
松内ミネラルコレクション標本

 水の量は、「最新 地学事典(地学団体研究会,2024)平凡社}による。「全改訂新版 原色岩石図鑑(益富寿之助,1987)保育社」では、黒曜石は2%以下、真珠岩は2〜5%、松脂岩は5%以上とされている。 

3.豊岡市の松脂岩

 豊岡市で採集した松脂岩を観察してみましょう。
 ガラス質、黒色の岩石で、一部に赤色や褐色を帯びた部分があります。また、流理による縞模様が見られるところもあります。

豊岡市の松脂岩(左右13.0cm)

 下は、松脂岩を割って得られた破片です。かなりとがって割れ、紙をなんとか切ることができました。しかし黒曜石ほどの鋭さはなく、割れ口は貝殻状ではなくギザギザとした凹凸に富んでいます。光沢は、黒曜石に見られるガラス光沢ではなく、アスファルトのようなギトリとした松脂光沢を示します。
 このようなことから、この岩石は黒曜石とは言えず、松脂岩であると判断できます。(かなりとがって割れるとか、やや透明感があることなどから、黒曜石に近い松脂岩と言えるかもしれません。)

松脂岩の破断面

 薄く割れたところは透明感があって少し光を通します。また、黒色に赤褐色が混じっているところも見ることができます。
 また、内部に乳白色の玉髄や、青みがったた白色のオパルがふくまれています。オパルに太陽の光を当てると内部に虹のような色が現れました。

薄く割れた松脂岩は透明感がある
 
 青みがかった白色のオパル
(中央に虹色が見える)

4.風化面に見られる真珠岩


 露頭で表れた松脂岩は、表面から数mm〜数cmの厚さで白っぽくなっています。これは、松脂岩が真珠岩に変化しているからです。この部分は軟らかく光を反射する真珠のような光沢(真珠光沢)を示します。ここをルーペでのぞいてみると、同心円〜渦巻状の模様が並んでいて、目を見張る美しさです。これは、真珠状組織という真珠岩に特有のつくりです。

真珠岩の真珠状構造(左右17mm)

 この地点の真珠岩は、岩体内部にはなく、地表に現れた松脂岩の風化面に見られます。このことから、初生的なものではなく、風化によって松脂岩から変化したものと考えられます。
 松脂岩の破断面を、ガスバーナーで強熱してみました。すると、パチパチと音を立てながら白っぽく変化しました。冷えてからそこをルーペで見ると、露頭の風化面で見られるほど鮮やかではありませんが同心円状の模様が現れました。
 この模様は、初めの松脂岩に隠されていた真珠状構造が熱による脱水によって顕在化した可能性があります。黒曜石やサヌカイトなどの表面には水和層がつくられますが、初めからある程度の水をふくんでいる松脂岩は脱水によって真珠岩に変化するのかもしれません。

バーナーの加熱によって表れた真珠状構造
(左右17mm)


■岩石地質■ 新第三紀中新世 北但層群豊岡層 松脂岩・真珠岩
■ 場 所 ■ 豊岡市森津
■探訪日時■ 2024年7月6日