砥峰高原H(800m)  神河町   25000図=「長谷」


草原にうずまる繁松鉱山の跡

繁松鉱山跡へ

 砥峰高原の標高900mに近いところに、繁松鉱山があった。この鉱山に関する史料は地元にも残されておらず、ここに鉱山があったことを知っている人もほとんどいなくなった。
 道もすっかり消えている。今は、ススキの草原にしずかにうずもれているばかりである。

 かつて、ここを松内茂氏(松内ミネラルコレクション)に案内してもらったことがあった。繁松鉱山の名前を聞いたのもそのときである。
 当時の記憶をたどりながら、高原を流れる小さな川を遡って、繁松鉱山の跡をめざした。

高原内の小川を遡る

  雨上がりの朝、砥峰高原には薄日がさしていた。朝の空気は、湿ってはいるが冷んやりとして肌に気持ちがよい。
 カサスゲの群落を抜けて、高原を流れる小川に入った。長靴で、ジャブジャブと水を分けて上流へ向かう。
 川の両側は、いつの間にか大きく伸びたススキ。その下には、ヒメシダが繊細な葉を柔らかく広げている。
 水の中へ、ボチャンと何かが飛び込んだ。トノサマガエルだった。足元から逃げて、水底の石の下に隠れる。その石をのけると、慌ててまた近くの石の下へ。しばらくそのカエルと遊んだ。
 トノサマガエルも全国的にその数を減らして、今は環境省の準絶滅危惧に指定されている。
 ときどき小さな河原があって、石の間の砂地にジシバリやハナニガナが咲いていた。ノイバラやコガクウツギは、流れの上に葉を伸ばして白い花をつけていた。

ノイバラ コガクウツギ

 最初の二股を過ぎると、川幅がしだいに狭くなった。岸を深く削ったところは、頭が地面より低くなり、ちょっとした探検気分。倒木があったり、岩が重なっていたりで歩きにくいところは、岸に上がってススキを分けた。
 くねくねと何度も曲がる流れをたどっていくと、次の二股が現れた。

小川沿いの草原

 この二股をどちらに進んだのか、思い出せなかった。そこで、始めに左に進むことにした。水の流れはさらに細くなって、ほとんどススキやヒメシダに隠れるようになった。流れの周りには湿地が広がり、地面はぬかるんでいた。

 その谷の最奥に、木々の茂みがあった。そこには、大きなミズナラが立っていて、その下が湿原になっていた。オオミズゴケがあちこちに広がり、イグサやゴウソなど湿原性の植物が生えていた。
 こちらの谷に鉱山跡がないことが分かったので、隣の谷へ高原を横切ることにした。

 ススキは腰の高さまで伸びていた。ススキの根を痛めないように、できるだけ密度の低いところを選んで進んだ。ノアザミのピンクが、緑の草原に鮮やかだった。

ノアザミ

 谷に下りてみると、細い水の流れがあった。先ほどの二股の反対側の水流である。この流れを遡った。このあたりは、ウツギがまだ白い花をつけていた。

 流れの脇に、カラミが落ちていた。一つ、二つ、また一つ・・・。
 大きなウラジロノキをくぐり、リョウブとミズナラの林を抜けると、目の前が開けた。そこが繁松鉱山跡だった。

繁松鉱山跡

 斜面に裸地が広がり、その上部に石垣が残されていた。地面にはたくさんの丸い石が転がっている。大きさはよくそろっていて、直径6cm程度。数100個、いや1000個は超えているだろう。
 この丸い石は、「よせき」と呼ばれていた団鉱。硫砒鉄鉱をふくむ粘土を手で丸くこね、これを焼いて砒素を昇華させていた。
 この斜面を登ってみた。たくさんのよせきが、くっつきあって大きな塊となっているものもあった。カラミは、もうだいぶん風化していた。
 石垣の上は、狭い平坦地となっていて、ここには草が生えていた。レンガとがいしが落ちていた。

「よせき」の山 ズリの上の石垣

 周囲を歩いてみたが、坑口などは見つからなかった。この鉱山は、いつ頃開発されて、いつ頃まで稼行されていたのであろうか。どのような人たちがここで働いていたのであろうか。
 この近くに、これも砒素を採っていた琢美鉱山があったので、その支山という位置づけだったのかもしれない。ただ、もうそれは想像するより他はなかった。

 鉱山跡の上に立つと、眼下に砥峰高原の大草原が広がっていた。カッコウの声が、薄日の射す高原をのどかに渡った。

初夏の砥峰高原

山行日:2015年6月20日

山頂の岩石  後期白亜紀 川上花崗岩
 砥峰高原は、花崗閃緑岩でできている。今回歩いたコースでは、小川の水底に一ヵ所、この露頭が見られた。
 繁松鉱山跡で見られる「よせき」から、ここでは砒素が採掘されていたと考えられる。鉱山跡から、黄鉄鉱を見つけることができた。
 「よせき」や「砒素」の採掘については、「兵庫県神河町の琢美鉱山の砒素鉱床」を参考にして下さい。

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