砥峰(972.2m) 〜砥峰高原     神河町    25000図=「長谷」


雨の砥峰高原に逝く夏

砥峰(砥峰高原の東屋より)

 砥峰高原の中ほどにある東屋に着くと、雨が降り出した。朝から幾度かぱらぱらと降ってきたが、どうやら今度は本降りになったようだ。底が暗くぼやけた雨雲が北から走り寄ってきて、雨脚は一気に強くなった。
 雨の濃淡が、白のレースの襞ように縦に並び、高原の上を足早に駆け抜けていく。平石山のなだらかな山稜は、雨とガスに消えてしまった。

雨にかすむ砥峰

 この東屋のベンチに座り、しばらく雨宿りをした。ここからは、砥峰高原の下半分が広く見渡せる。夫婦二人連れのハイカーが、この雨に遭って、あわてて車に戻っていくのが見えた。
 雨は、20分程であがった。そして雨は、草原の緑をいっそう鮮やかにした。草原の向こうに立つ砥峰は、射し始めた薄日を浴びて白い空に浮かび上がった。この砥峰を下って、高原をここまで歩いてきたのだった。

ゆるやかに波打つ砥峰高原

 標高972.2mの砥峰は、高原からの比高が170m程度。高原の北に、小丘のように底の広い三角形で立っている。登山路はないが、送電線の巡視路と南西尾根の林界の伐り開きを利用して、30分程で上ることができた。
 ヒカゲノカズラのはう山頂は、小さく伐り開かれ、その真ん中に三等三角点が埋まっていた。北はスギやヒノキの植林、南は自然林である。クリの木が、黄緑色の小さなイガをつけていた。
 山頂から、そのまま北東へ尾根を進んだ。高木の下に、ササがびっしりと生い茂っている。このササを分けて下りて行った。

砥峰北東尾根

 最初の小さなコルで尾根を離れ、南へ植林の急坂を下った。やがて、下の谷に沿った杣道が現れた。この道を途中まで利用し、最後は赤い実をつけたガマズミのかかる沢を辿って、車道に飛び出したのだった。

ガマズミの赤い実

 高原の天気は変わりやすい。再び降り出した雨の中、東屋を出た。目の前に広がる砥峰高原は、ゆるやかに緑の起伏を繰り返している。

 標高800m〜900mの高地に広がるこの高原は、隣接する峰山高原とともに「化石周氷河斜面」とされている。
 氷期の凍結・破砕作用は、山頂部や突出部で激しく起こり、破砕された岩石は山上の谷部を埋めた。このようにしてできた穏やかな起伏の高原状の地形を化石周氷河斜面というのである。
 また、砥峰高原にはこんもりと盛り上がった小丘がいくつかあったり、小さく短い谷がいくつも走っている。不自然な規則性のない地形である。
 これは人工的につくられた地形で、タタラ製鉄の砂鉄を集めるために表土が掻き落とされた跡である。

 高原を歩くと、砂鉄(磁鉄鉱)を含んだ花崗岩の風化した露頭が見られた。その下には、小さな水の流れに沿って砂鉄がうっすらと線を描いた。
 高原下部の草原には木道が整備されている。ススキに半ばおおわれたこの木道を歩いた。サワヒヨドリの白や淡紅色の花が、ぽつんぽつんと咲いている。アブラガヤが茶色の実をつけて群れている。ツリガネニンジンやキキョウが、うす紫の花をつけていた。

ツリガネニンジン キキョウ

 今日は、台風の通過による北風がこの高原にも吹いていた。雨にぬれた体に、この風は少し肌寒かった。
 気の早いススキは、もう穂をつけていた。朝飛んでいたアカトンボは、この雨でどこかに消えてしまった。
 夏休みのあとわずか。砥峰高原に今年の夏は逝ってしまった。

山行日:2002年8月20日


砥峰高原駐車場〜とのみね自然交流館前〜送電線鉄塔(Ca810m)〜鉄塔下尾根(Ca860m)〜(南西尾根)〜砥峰山頂〜(北東尾根)〜Ca890mコル〜(谷を南へ)〜車道〜とのみね自然交流館前〜砥峰高原〜東屋〜砥峰高原〜駐車場

 2002年の春、砥峰高原の入り口に「とのみね自然交流館」がオープンした。ここを拠点として、高原の散策が楽しめる。

 今回は、初めに砥峰に登った。とのみね自然交流館を過ぎて福知へ続く車道を少し歩くと、送電線鉄塔下に出る。ここから、送電線巡視路を上った。ササが広く伐り開かれた道である。
 南西尾根に立つ鉄塔からは、この尾根を辿った。林界の細い伐り開きがある。駐車場から30分程度で山頂に達した。
 山頂からは、そのまま北東尾根を進んだ。林界の伐り開きらしきものがあるがほとんどササに覆われている。ササを分けて下って行った。最初の小さなコルから南へ急な斜面を下りると、下の谷に沿った杣道が現れた。この杣道を利用して、そして最後は沢を辿って下ると車道に飛び出した。
 
 砥峰高原の中には、散策路がつけられていて、草原内には木道も整備されている。地形や地質を観察しながら、東屋まで上る。雨宿りをした後、再び降ってきた雨の中を車まで戻った。


山頂の岩石 後期白亜紀 峰山層 ホルンフェルス(火山礫凝灰岩起源)
 砥峰高原には、花崗閃緑岩が分布している。これは、白亜紀後期〜古第三紀に形成された山陰帯の花崗岩類の一つであり、川上花崗閃緑岩と呼ばれている。
 新鮮な岩石は、砥峰の南麓、砥峰高原入り口手前の車道で見られる。灰色中粒の花崗閃緑岩で、主に石英・斜長石・アルカリ長石・黒雲母・角閃石から構成されている。

 その北に位置する砥峰には火山礫凝灰岩起源のホルンフェルスが分布している。この地層は、砥峰高原の花崗閃緑岩の母岩にあたり、花崗閃緑岩をつくったマグマが貫入したときに、その熱によってホルンフェルス化したものである。砥峰の山頂付近の岩石は、真っ白に変質した岩石で一部に黄鉄鉱が観察された。

※ 詳しくは、岩石地質探訪「砥峰高原の地質と地形」へ 


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