御旅山② 139.6m     姫路市  25000図=「姫路南部」


秋の草花とかえる岩を巡ってジオハイキング
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岩場より御旅山山頂を望む

 御旅山は、市川の河口に近い小さな山である。姫路市民がこの山に親しめるように、地元「御旅山山遊会」の人たちが里山保全活動を行っている。
 この秋、その山遊会が「御旅山自然観察会」を計画した。その講師をつとめることになったので、下見として10年ぶりにこの山を歩いてみた。下見は2回行い、今日はその2回目である。

 御旅山の南麓は、有名な「灘のけんか祭り」の練り場。その祭りが5日前に終わったばかりで、山肌に設けられた桟敷席では、今朝からむしろ干しが行われていた。
 ふもとに車を止め、道の法面に現れた地層を見ながら登っていくと御旅八幡神社の前に出た。

 観察会の集合地点はこの神社。神社の左脇に登山口がある。登山口には、御旅山をイラストと写真で紹介した「御旅山自然マップ」が立てられている。
 これには、登山コースと共にたくさんの野草や野鳥の写真が載っている。これを見ただけでも、どれだけ山遊会の人たちが御旅山に深く関わっているかがわかる。

御旅八幡神社

 登山口から、道に地層が現われていた。地層の表面は凹凸に富んでいる。そして、普通、地層といって想像するような層をなしていない。
 このような状態を塊状(massive)と表現することがあって、この地層がゆっくりと物質が降り積もってできたものではなく、一気にできたことを示している。
 岩石には、石英や長石の結晶片や流紋岩や軽石などがふくまれている。また、軽石や火山ガラスは押しつぶされてフィアメと呼ばれるレンズ状(溶結レンズ)になって平行に配列している。ここに分布しているのは、火砕流によってできた溶結火山礫凝灰岩である。

Stop1 この地層のところどころに、大きさ数10cmの流紋岩の火山岩塊が飛び出している。観察会で、地層の見方やはるか昔に起こった火山活動を説明する地点を決めて、Stop1とした。

溶結火山礫凝灰岩
 
F:長石、Q:石英、R:火山礫(流紋岩)、fi:フィアメ(溶結レンズ)
溶結火山礫凝灰岩にふくまれる流紋岩の火山岩塊(矢印 長さ48cm) 

 地層を見ていると、1回目の下見のときに出会った山遊会の松岡さんが下りてこられた。今日は、ユウスゲをふやそうと実を採ってきたということで、見せていただいた。真っ黒でつやのある実だった。夏の夕方にひっそりと黄色の花を開くユウスゲ。いつか、この山で見たいと思った。
 岩盤の割れ目に沿うように茎を這わせたテリハノイバラが赤い実をつけていた。秋の山では、いろいろな植物の実を見つけるのも楽しい。
 

テリハノイバラ

 最初の鉄塔の手前は南に開けた展望地。「お月見スポット」と名づけられてベンチが設置されている。今年も、中秋の名月の夜、ここに15人ほど集まったという。
 雲の間から降り注いだ光が、播磨灘を照らしていた。光が当たったところが海面に帯のように長く横たわり、淡い金色の光をはね返していた。その光の帯の手前に、上島とクラ掛島が2つ離れて浮かんでいた。
 「お月見スポット」には、フジバカマやノジギクが移植されていた。松岡さんから夏の高温と水不足でなかなかうまく育たないと聞いていたが、それでもフジバカマのピンク色のつぼみが開き始めていた。ノジギクも、あと1か月ぐらいするとたくさんの花をつけるだろう。

月見スポットから播磨灘を見る フジバカマ 

 「お月見スポット」の上の鉄塔を過ぎると、道はゆるくなってやがて下っていった。道に現れる地層は、いろいろと変化した。
 次の鉄塔のとの間の鞍部あたりでは、火山礫や岩石片をほとんどふくまない緑色を帯びた地層となった。細かく不規則な節理が発達している。火山灰を主体とした凝灰岩だと思われるが、これまで見られた溶結凝灰岩とは異なっている。降下した火山灰が積もった地層か火砕サージによってできた地層の可能性もあるが、これはもっと調べてみないと判らない。

緑色の凝灰岩

 登山道に沿って、木の幹に樹木札がかけられていたり、草花のうしろに植物の名を記した札が立てられていた。
 樹木札に、イヌビワやザイフリボクを教えてもらった。ヤブランの緑色の実は、1回目の下見のときより多くついていた。

ヤブラン

Stop2 鞍部から急な坂を登り97mピークを越えると、流紋岩が現れた。鉄塔の手前である。ここをStop2とした。地面に現れた流紋岩にはマグマの流れた跡が縞模様をつくっている「流理」が見えるが、単純ではなかった。場所が少し違っただけで、流理の方向がちがっている。流紋岩はブロック化し、それらの間には 火砕岩(溶結凝灰岩)がはさみ込まれていたりする。
 おそらく、ここが流紋岩溶岩の一番下。流紋岩溶岩が流れたときに、その下にあった火砕岩を壊しながら、また自らも壊れながら流れたようすが見てとれる。
 鉄塔のすぐ横には、比較的新鮮な溶結凝灰岩が見られた。石英・長石・黒雲母・角閃石の結晶をふくんでいる。石英は最大3×3mm、長石は最大10×2mm。石英は、破片状のものが多くて、融食されているものもある。岩石片はほとんどふくまれていない(写真下)。

流紋岩質の溶結火山礫凝灰岩(左右23mm)

Stop3 鉄塔を越して少し登ると、登山道の左に大きな岩が連続して現れた。どれも流紋岩でできた大岩。ここで、流紋岩の特徴である、流理・球顆・自破砕構造などが見られた。もうここは、絶対にStop3!

岩場の大岩

 マグマの流れた跡が縞模様となったのが流理。ただし、流理のでき方については他の見解もあって研究が進められているが、あまり深入りできない。
 流理の方向が場所によってちがっている。これは、流紋岩がブロック化しているためで自破砕構造と呼ばれるつくり。すでに固まったところを、まだ固まっていないマグマが押して壊し、壊れた岩塊が固まってできたと考えられる。
 また、流紋岩には球顆も見られる。球顆は、マグマが冷えるときに微細な鉱物が球状に集まってできたつくり。球顆の見られる岩の下で、岩から転がり落ちた球顆を探した。しかし、残念ながらここではきれいな丸い球顆があまり見られなかった。あれば、観察会の良いお土産になるのに・・・。

 流理と自破砕構造(赤線が流理の方向) 流理
 流理の湾曲 流紋岩中の球顆 

 岩場から、御旅山の丸い山頂が間近に見えた。山頂から目で稜線を左へたどると、岩盤の上に1つの岩が飛び出している。この岩が、かえる岩だった。10年前は知らずに見過ごしていた。今は、この山の名所としてマップにも大きく取り上げられ、この岩までの道や道標がつくられている。

岩場より眺めるかえる岩

 岩場の先の分岐を、かえる岩の方へと進んだ。
 道の周辺には、ヒサカキやツツジ、ウバメガシなどの背の低い木が生えている。2013年1月、このあたりの木々は山火事によって焼けている。その1年後に登ったときには、火事の跡がまだ生々しく炭もあちこちに残っていた。それから10年。木々の緑がここまで回復していた。
 木々の下に、いろいろな花が咲いていた。ツクシハギは花期を過ぎつつあったが、まだ花を残していた。細い茎に小さな黄色の花をたくさんつけているのはオミナエシ。オケラを見たのは初めてかもしれない。キキョウも青い花びらをややうつむき気味に開いていた。

 ツクシハギ  オミナエシ
オケラ キキョウ

 ヒサカキが紫色の実をつけていた。ちょっと小粒だがブルーベリーに似ている。かんで見ると、苦みが口に広がった。シャリンバイの実は、もっとブルーベリーに似ていたが口に入れるをやめた。
 緑色のネズミモチの実は、独特の可愛い形をしている。

シャリンバイ  ネズミモチ

Stop4 花や実を見て道を進むと、かえる岩の乗った大きな岩盤に出た。岩盤は流紋岩でできていた。表面は、1~2cmほどの丸まった球が飛び出している。これも流紋岩の球顆。ただし、ここで見られる球顆は不完全なものが多く形もいびつである。
 岩の上を歩き、かえる岩まで進んでみた。かえる岩の大きさを測ってみた。長さ250cm、幅200cm、厚さ50cm。下の岩盤とはおそらくつながっていない。割れ落ちた岩塊が、うまくここで止まっている。岩の表面は、数mm~2cmの大きさのやはり不完全な球顆でおおわれていた。きっと、イボガエル・・・かな。
 モズの声が聞こえた。いつの間にか近くの梢のてっぺんに止まっていた。耳を澄ますと、ホオジロも鳴いていた。

かえる岩 かえる岩の岩肌

 かえる岩から、ツクシハギの咲く道をまっすぐ登っていくと山頂に達した。山頂には、あずま屋が建ち、山名プレートや風景板、ベンチなどが備えられていた。

御旅山山頂

 山頂は絶好の展望地。市川の流れの向こうに姫路の市街地が広がり、その中に姫路城が白く浮かび上がっている。
 姫路の市街地を低い山並みがぐるりと取り囲んでいる。重なる山並みは遠くほど淡く青い。北西に高いのは、たつの市の大蔵山。北に高いのは、笠形山。東は、高御位山。
 南には播磨灘が広がり、家島の島々が浮かんでいる。ベンチに腰かけて海を見ていると、目の前をキアゲハやアオスジアゲハ、ツマグロヒョウモンが舞った。ウラナミシジミがチラチラと飛んだ。

山頂からの光景

Stop5 山頂の岩石は、弱溶結の火山礫凝灰岩。火砕流によってできた岩石である。風化が進んでいるが、石英と長石の結晶を認めることができる。有色鉱物は黒雲母と思われるが変質している。石英は融食していることがルーペで確認できる。
 同質の流紋岩や異質の泥岩などの岩石片を含んでいる。押しつぶされてレンズ型になった軽石(フィアメ、溶結構造)が見られるが、下の写真のように軽石の火山ガラスが繊維状の形態を残し、外形もあまり変化していないものも見られる。
 この山頂をStop5として、御旅山の成り立ちや周囲の地層との関係、白亜紀後期の大規模な火山活動について話をしよう。

山頂の岩石

 山頂から、南東へ下った。道のまわりは、ツクシハギやトベラやコバノミツバツツジやアカマツの幼樹。その下でオミナエシの黄色の花が風に揺れ、ワレモコウやリンドウやコガンピが咲いていた。

 2回の下見とも、たくさんの人と出会った。20人程度の大学生ぐらいのパーティともすれちがった。
 御旅山は、地元の人たちに愛され、姫路市民に親しまれている。歩きやすくて地質や植物の観察にもすぐれ、播磨灘を見下ろせる山頂からの風景もいい。
 今度また、ノジギクの咲く頃、歩いてみたいと思った。
 あとは、帰って自然観察会の準備をして本番を迎える。晴れてくれるといいけれど・・・。

 ワレモコウ リンドウ
山行日:2024年10月20日

南麓駐車場~御旅八幡神社~かえる岩~御旅山山頂~御旅山八幡神社~南麓駐車場  map
 御旅山八幡神社からの登山道は、要所にベンチや道標があってよく整備されている。山頂から、北へ急勾配の道を下ることもできる。
 御旅山山友会制作の『御旅山自然マップ』や、灘の松原自治会発行の『恋の浜 緑の回廊マップ』がある。

山頂の岩石 白亜紀後期 四郷層 火山礫凝灰岩
 御旅山の地質については、本文を参照してください。
 毛利(2021)は、この地域の詳細な地質調査によって、四郷層は大型カルデラの西縁部でつくられた地層であって、東の宝殿層とは同じ陥没域で形成されたとしている。

毛利元紀(2021):兵庫県姫路市南東部、飾磨区妻鹿:御旅山山塊に分布する後期白亜紀火砕岩類の産状と地質過程.地学研究,66,159-181.

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