野島断層保存館(北淡震災記念公園)  淡路市小倉  
兵庫県南部地震で再活動した『野島断層』を保存

 兵庫県南部地震(1995年)であらわれた断層を、そのまま保存・展示したのが野島断層保存館です。震災30年を前にした2024年、はりま地盤・地震研究会でここを訪れました。

野島断層保存館


野島断層とは

 1995年(平成7)1月17日午前5時46分、明石海峡の地下16Kmを震源とするマグニチュード7.3の内陸型地震が発生しました。最大震度7のこの地震によって、阪神地方や淡路島北部は大きな被害を受けました。
 兵庫県南部地震と名付けられたこの地震は、六甲山地・淡路島と大阪湾を分ける六甲ー淡路断層系に属する活断層の一部が再活動したものです。
 この地震で、淡路島北西部の淡路市江崎から富島にかけての海岸沿いに現れたのが延長10kmに及ぶ野島断層です。

野島断層の位置と変位量
兵庫県南部地震データ集(神戸市教育委員会教育企画課)の図を利用

 野島断層の南端部に近い小倉地区では、断層崖や生垣・畑のあぜ道の食い違いなど様々な断層による変位地形があらわれました。この断層を、そのまま保存・展示したのが北淡震災記念公園の『野島断層保存館』です。

 野島断層保存館では、長さ140mに及ぶ断層をかまぼこ型の建物で覆って展示しています。地震から30年たち、地表にあらわれた断層のほとんどが消えつつある今、貴重な地形遺産としてここに残されています。
 この野島断層は、1998年に国の天然記念物に指定されました。また、2022年にはIUGSの「世界の地質遺産100選」に選ばれています。(IUGS:国際地質科学連合)

地表にあられた野島断層(赤枠内が保存・展示範囲)
北淡震災記念公園のパンフレットの図を利用

野島断層保存館に入ってみると

 野島断層保存館に入ると、まず横倒しになってつぶれたトラックが目に飛び込みます。その後ろには、くずれ落ちた高架の道路。地震によって倒壊した国道43号線の再現模型です。

倒壊した国道43号線の再現模型

 エントランスの展示を見て断層保存ゾーンに入ります。入ったところは保存された140mの断層のいちばん端で、ここからまっすぐに断層が延びています。
 断層の海側に通路があって、断層の見方が説明版や模型などでていねいに説明されています。断層は北東ー南西方向に延びていて、通路の手前が海側、奥が山側になります。山側が断層によってずり上がっています。断層による地面の段差(断層崖の高さ)は、最大50cmにおよび、最大1.5m右方向に横ずれしています。

 道路やその横の水路がずれて壊れています。その先で、断層は2つに分かれ、主断層の海側に副断層がほぼ平行に延びています。この2つに分かれた断層は、地下では1つの断層につながっていると考えられています。

壊れた道路や水路
その先に2つに分かれた断層が延びている
2つに分かれた断層
奥が主断層、手前が副断層

 断層にそってあぜ道や生垣がずれています。あぜ道も生け垣も断層の向かい側が右にずれているので右横ずれ断層でもあることがわかります。

  生垣の先で断層崖は消えて、幅2〜3mの地割れが斜めに並ぶ亀裂帯となります。このような亀裂は、雁(がん)が斜めに並んで空を飛ぶ形に似ているので雁行亀裂と呼ばれています。
 雁行には、右雁行と左雁行がありますが、ここで見られる雁行は左雁行です。左雁行は、「杉」の字の旁(つくり)と同じ配列なので「杉型雁行」とも呼ばれます(一方、右雁行はカタカナの「ミ」のような配列で「ミ型雁行」といいます)。
右横ずれ断層による杉型雁行亀裂のでき方

 雁行亀裂のでき方を、上の図で考えてみましょう。これは地表を上から見ています。1つの長方形で考えてみると、右横ずれ運動が起こると、長方形は下のようにゆがみ、対角線が引き伸ばされた方向に引っ張りの力がはたらきます。この引っ張りの力によって亀裂ができると考えられます。図のように右横ずれ運動の場合は、杉型雁行となります。
 
右横ずれによってずれたあぜ道
左雁行の亀裂帯
(マウスポインタを図にのせてください)

 亀裂帯を過ぎると、再び断層崖が現れます。はじめの断層とは、2mほど海側にとび移った位置にほぼ一定の高さで一直線に延びています。
 
まっすぐに延びる断層

 断層が動いて地震が起こるとき、断層面の両側の地盤がずれ動きます。このとき、断層面に沿って大きな圧力が加わり、断層面近くの岩盤が細かく砕かれて粘土になります。これが断層粘土です。断層粘土には、ずれ動いた方向に擦り傷がつくられます。これを条線といいます。
 条線の残った断層面がはぎとられものが展示してありました。備えつけのルーペで見ると、細い条線がよく見えます。また、地震直後の条線のある断層面の写真が展示してありました。これを見ると、岩盤が斜めにずれ動いたことがわかります。
断層面の条線(写真)

 保存館の南西端では地面が掘り下げられ、地下のようすが見えます。山側は灰色の粘土層、海側は黄土色の砂層です。上側の粘土層(山側)が下側の砂層(海側)の上にずり上がった逆断層であることがわかります。このトレンチ展示では、断層粘土や液状化の跡なども観察できます。
トレンチ展示
(マウスポインタを図にのせてください)

北淡震災記念公園で
 
 神戸市長田区若松町の公設市場にあった防火壁がここへ移されました。第二次世界大戦の神戸大空襲、そして阪神・淡路大地震の揺れと火事に耐えた「神戸の壁」です。ここで、野島断層と共に震災を語り継いでいます。
神戸の壁

 保存館の南にあるのが「メモリアルハウス」です。断層が家の約1m海側を通り、地震で大きく揺れました。しかし、鉄筋コンクリートづくりで基礎がしっかりしていたことや、地盤がよかったことなどの要因でほとんど壊れずに残りました。住人の方は震災後ここで4年間暮らし、その後、震度7の激震に耐えた家として公開されています。
 家に上がってみると、床や柱が傾いていることがわかります。また、地震で被害を受けた台所のようすが再現されています。家の外に出てみると、花壇のレンガの列や塀が断層によって右にずれたようすが見られます。
 
メモリアルハウス 再現された台所 花壇のレンガ(1.2mずれている)

野島断層見学のまとめです

 地震は地下の岩石にひずみがたまり、ひずみに耐えきれなくなったときに破壊されて起こります。そのときできるのが断層です。
 地下で地震を発生させた断層を震源断層、断層のずれが地表まで到達して地表にずれが生じたものを地表地震断層(地震断層)と呼んでいます。

震源断層と地表地震断層
松田時彦(1995)「活断層」岩波新書の図を利用

 地表地震断層があらわれた野島断層は、私たちに地震のエネルギーの大きさと自然の驚異をじかに教えてくれます。
 断層のいろいろな表れ方や道路や水路・生垣などの破壊がそのまま保存された野島断層は、学術的・文化的・教育的に大きな価値があります。

『野島断層保存 北淡震災記念公園』ホームページへ

2024年12月6日探訪


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