小沢の滝  神河町    25000図=「粟賀町」「生野」


人知れず流れ落ちる7つの滝
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小沢の滝

 小沢(こざわ)の滝は、神河町山田の牛蒡谷川にかかっている。
 『神河町歴史文化基本構想 資料編』(神河町 2017)に「牛蒡谷川(ごぼうたにがわ)の上流にあって、高さは約10m、滝壺はなし。」と記され、地図にその位置が示されている。
 地域にその名前が残るこの滝についての資料はこれ以外に見つからず、ネット検索でもヒットしない。どんな滝なのか?そもそも、本当にあるのか?快晴に恵まれた晩秋の一日、この滝をめざした。

 越知川に架かる山田橋から、北東に3つの山が見える。この山並みの手前に流れるのが牛蒡谷川である。
 

越知川より点名山田を望む

 牛蒡谷川の入口にある大年神社の下に車を止めた。石段を上り神社に向かう。
 社殿の前に広がる境内は、朝の清々しい空気に満ちていた。手水鉢から落ちる水の音に、ヒヨドリの鳴き声が重なった。
 拝殿の前で手を合わせから出発した。

大年神社

 神社からゆるく登り、シカよけゲートを開いて林道に入った。
 林道は沢に沿ってほとんどまっすぐに延びていた。法面の地層は、土石流堆積物。地層の中の大きな岩は、大雨の時に土砂といっしょにここまで流されて堆積した。
 道ばたに咲くアザミやノコンギクは朝露で濡れていた。

 アザミ

 やがて林道は左へ大きく曲がったが、沢に沿ってまっすぐ進む道が分岐していた。小沢の滝を目ざして、この沢に沿う道を進んだ。始めは広かったこの道は次第に先細って山道となった。
 谷はだんだん深くなってきた。頭上には青い空が広がっているのに、陽はここまで射しこんでこない。
 二股を右に進むと、沢の水量が急激に少なくなった。そして、まもなく水は谷底をおおう岩の下に消えた。そのうち、山道も岩の上に見えなくなった。
 この上に滝があるとは思えなかった。ときどき水が岩の間に現れて、チョロチョロと音を立てた。
 高さ7、8mもある三角形の大岩が沢をふさいでいた。そこを回り込んで進むと、炭焼き窯の跡があった。窯のちょうど真ん中に植えられたスギが大きく育ち、かつてここで営まれたなりわいの痕跡が消えようとしていた。
 シロダモが真っ赤な実をつけていた。ソウシチョウの声が林の中に響いた。
 急な坂を登っていくと、谷はしだいに浅くなって広がってきた。あたり一面はスギの植林地で、地面は落ちたスギの枝葉で埋まっている。水音は、もうまったく聞こえない。
 滝は、やはりなかった。とにかく、三角点まで登ることにした。尾根が近づくと、スギの木立の向こうに空の青が透けて見えた。
 

尾根へ

 スギ林の下はどこでも歩けたが、尾根の手前でアセビにふさがれた。シカの足跡をたどってアセビを分けると尾根に出た。
 尾根にはシカよけのネットが張られていた。ネット向こうに711m峰が高くそびえている。
 尾根は雑木におおわれていた。斜め前から晩秋の低い陽が射しこんだ。アカマツやコナラの落ち葉を踏んでひと登りすると、点名山田(608.3m)の山頂に達した。
 三角点の標石は、頂上から10mほど集落側に下ったところに埋められていた。

点名山田(608.3m)三角点

 うーん、ここからどうするか。二股を右にとったが、そのあとしばらくの間、左の谷から沢音が聞こえていた。水量は、左の谷を流れる沢の方がずっと多い。
 資料に示されていた滝の位置が沢一本ずれているのだと思った。いったん降りて、その沢を登り直そうと決めた。

 山頂から西へ下った。尾根には小道がついていた。地籍調査のピンクや黄のテープが、ずっと続いた。ときどきクマよけの笛を吹いた。急なところは、ヒサカキやシキミの枝をロープ代わりにつかんで滑り降りた。何度かヒイラギの枝をつかんで痛い思いをした。谷まで下って沢を渡ると、林道が大きくカーブする分岐に出た。

 今度は、分岐を左へと進む。この道は、再び大きく曲がって、先ほど歩いた谷のひとつ左の谷へ入った。こちらを流れるのが牛蒡谷川の本流である。
 道は沢の右岸から左岸へ渡るところで終わったかと思ったが、そのあとも草に埋もれながら続いていた。しばらく進むと、ヘアピンに折れて右の斜面を上っていた。ここから沢を右岸に渡ると、沢に沿って小道がついていた。
 小道を登る。また一度、渡渉した。谷はだんだん深くなってきた。ここにも炭焼き窯の跡があった。

 左下に流れている沢からの水音が少し大きくなった。沢に下りてみると、そこに小さな滝がかかっていた。四角く割れた岩盤を二筋の水が落ちている。右は岩盤に沿ってまっすぐに落ち、左は階段状に跳ねながら落ちている。落差はせいぜい5mぐらい。

一の滝(シャンペンタワーの滝)

 この滝を越えると、沢の底全体を大きな岩盤が斜めにおおっている。その上を水が滑り落ちていた。ちょっと過激な天然のウォータースライダーのようだ。

二の滝(ウォータースライダーの滝)

 滝の横を登っていくと、次の滝が見えた。黒い岩肌の左側を水が二筋に分かれて落ちている。水の量は少ないが、岩盤自体に迫力がある。滝の下には小さな滝壺があった。

 三の滝(大岩盤の滝)

 それからも、滝は次々と現れた。滝の岩盤は溶結凝灰岩でできていて、板状節理が見られた。板状節理があまりに発達していると、そこからペラペラとめくれ落ちてしまうが、適当に発達しているため、平らに割れた面を岩盤の表面に並べている。
 次の滝は岩盤の表面をつくる節理に対して垂直に交わる節理が2方向に見られ、Yの字をつくっていた。
 この滝の上にも、陽を浴びて白く輝く5つ目の滝が見えた。

 四の滝(Y字の滝)  四の滝の落ち口付近に発達する板状節理

 5つ目の滝の下へと登った。滝を流れる水は木漏れ日を浴びたところだけが白く、岩盤には木の影が映し出されていた。
 水は幾筋にも分かれて落ち、滝からさらさらと清らかな音が聞こえる。滝つぼに落ちた水も、足元で小さな音を立てて下の滝へと滑っていった。

五の滝(木漏れ日の滝)

 さらに滝は続いた。次の滝は落ち口が狭く、そこから水が勢いよく飛び出している。岩盤は下ほど広がっていて、そこを流れる水も薄く広がった。一本の木が、滝の真ん中あたりで宙に浮いたように倒れていた。

 六の滝(末広がりの滝)

 もうこれで終わりかと滝の上を少し歩くと、二段になった滝が現れた。
 滝はこれで終わった。最後の滝の上は谷が広がり傾斜もゆるくなった。ここで引き返すことにした。ここまで滝に沿って登ってきたが、左岸に沢から少し離れて小道がついていた。

七の滝(二段の滝)

 牛蒡谷川の標高400m~485mにかけて連続する7つの滝。一つひとつの滝を振り返って、それぞれに名前をつけてみた。

 一の滝は、シャンペンタワーの滝
 二の滝は、ウォータースライダーの滝
 三の滝は、大岩盤の滝
 四の滝は、Y字の滝
 五の滝は、木漏れ日の滝
 六の滝は、末広がりの滝
 七の滝は、二段の滝

  ・・・でどうか?⑥は扇の滝でもいいかもしれない。
 一の滝は小さく、二の滝は斜めの岩盤を滑り落ちる滑滝。三の滝からは、どれも落差が10m前後で甲乙つけがたい。小沢の滝がどれをさすのか分からなかった。
 下山後、町の教育委員会を通して地元の方に聞いてもらった。小沢が「おざわ」ではなくて「こざわ」だと分かった。しかし、その方も滝の上まで行ったことはなく、小沢の滝がどれだかわからないということだった。
山行日:2023年11月21日

行き:大年神社~防獣ゲート~林道分岐~608.3mピーク(点名山田)~林道分岐~小沢の滝
帰り:小沢の滝~大年神社 map
 大年神社の下に車を止めたが、ゲートの前に広いスペースがあるのでそこに車を止めた方が良い。
 小沢の滝へは、標高340mまで林道が延びていて、そこからも小道がついている。小道は、消えかかっているところがある。道標や滝の案内板などは、まったくない。

山頂の岩石 白亜紀後期 笠形山層 流紋岩質溶結火山礫凝灰岩
溶結火山礫凝灰岩
(牛蒡谷標高360m地点)
 小沢の滝周辺をふくめて牛蒡谷川には、褐色を帯びた灰色の強く溶結した溶結凝灰岩が分布している。
 無色透明の石英、無色あるいは白色の斜長石、淡いピンク色のカリ長石の結晶に富んでいる。また、黒雲母の結晶もふくまれている。黒雲母は変質していることが多い。
 泥岩や流紋岩、安山岩などの岩石片をふくんでいる。

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