入炭山②(816.9m)  神河町    25000図=「生野」


木々の葉色づく初秋の山頂へ
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長谷から望む入炭山

 入炭山は、市川と猪篠川を分ける山並みの中にどっしりと座っている。長谷から見ると、ホテルの尖塔の上に、白い反射板を乗せた平らな山頂が空を区切っている。
 今回は、この反対側の杉から送電線巡視路を利用して山頂へとたどった。

 ゆるやかな斜面に林道が延びていた。この斜面は、岩屑が堆積してできた麓屑面(ろくせつめん)。この上を歩くと、少しずつ傾斜を増していくこの地形の特徴がよくわかる。
 スギとヒノキの植林地に、キジバトの声がのどかに響く。日当たりの良いところには、イヌタデが咲いていた。
 林道がヘアピンに曲がるところに広場があって、ここから送電線の巡視路が谷に沿って延びていた。

送電線巡視路入口

 道は、谷を流れる沢の右側に続いた。スギ林の上に見える空が青かった。山の上には、きっと良い風景が待っている。
 高さ5mぐらいの大きな岩の脇を抜けると、林道に出た。はじめに歩いた林道が、大きく迂回してここへ延びてきていた。道の土は湿っていて、スギゴケやゼニゴケ、チドメグサにびっしりとおおわれていた。
 巡視路は、林道を横切ってそのまま沢の右を上へと続いていた。傾斜はもうかなり急になって、プラ階段がつけられていた。
 スギ林に光が射し込む。スギの下は、一面のミツマタ。その下には、オオバノイノモトソウやジュウモンジシダ・・・。シカの影響を大きく受けた植生が広がっていた。

林道を横切る ミツマタにおおわれた斜面

 巡視路は右に大きく曲がって沢を離れた。何度か曲がって達した尾根を登っていく。道は、作業道に出たところでいったん途切れた。
 作業道を左に行くとすぐ終点。もとに戻って30mほど右に行くと、そこに巡視路の入口があった。もう上に鉄塔が見えている。足元に、マツカゼソウが咲いていた。
 鉄塔の下に、岩石が露出していた。風化面に縞模様が見える。安山岩だが、溶岩か火砕流堆積物が再流動したものか判断がむずかしい。縞模様と平行に、板状の節理が発達していた。

 鉄塔下の安山岩

 鉄塔の下に道が続いていた。いく度か浅い谷をわたって進んでいく。気持ちよく歩けるが、このままだと入炭山の山頂から離れてしまう。巡視路と別れて、尾根にとりついた。
 尾根に道はなかった。植林の下はコバノイシカグマにおおわれている。間伐された丸太が横たわっていた。丸太を一つひとつ越えて登っていく。
 傾斜が急になり、刈り払われて放置されたアセビの枝が脚にからみついた。ツルリンドウの赤い実を見ながら息を整えた。
 いつの間にかスギ林からヒノキ林に変わっていた。木の上でコガラが鳴いていた。
 

山頂へ ツルリンドウの実 

 アセビを抜けて顔をあげると、その上に入炭山の山頂があった。
 山頂は広い草地で、一面コバノイシカグマにおおわれていた。その中に茎を伸ばしているベニバナボロギクはもうワタゲを飛ばし切っていた。
 三角点の向こうにケヤキとアズキナシが立っていた。ケヤキの葉はまだ緑、アズキナシはすっかり黄葉していた。
 

山頂のケヤキ(右)とアズキナシ(左)

 山頂の大きな反射板は、金属ネットで囲まれていた。山々の間に長谷ダム見える。
 長谷ダムの上には、犬見川両岸の山並みが峰を並べ、その奥に藤ヶ峰が見えた。

山頂から北西の展望

 山頂から北東へ進んだ。左側は、コナラ林。黄葉の始まった葉に、やわらかな秋の陽が注ぐ。枝葉の間から、長谷の集落の家や田が見えた。
 ゆるく下って、上り返す。上り返した稜線の方が、三角点のある山頂よりわずかに高い。

尾根の自然林

 今度は、小さな反射板が立っていた。ここからも暁晴山や三辻山がよく見える。反対側も木々が途切れていて、遠くに笠形山が見えた。

 南東に笠形山

 スギの落ち葉の上にうっすらと踏み跡がついていた。尾根を下ったコルは、東西をつないでいた旧峠道。人々の行き来があったのはもうずっと昔のこと。峠道はすっかり消えて、ここが峠だったことを示すものは何も残されていなかった。
 コルから上り返し、八幡山へ続く主尾根と別れて779mピークをめざす。
 ピークの前に、北東に開けた展望所があった。北に八幡山が近い。猪篠の集落の上に、白岩山と高畑山がそびえ、稜線を左右に大きく広げていた。

 白岩山(右)と高畑山(左)

 779mピークを越えると鉄塔の下に出た。いつも下から眺めていたピークと鉄塔。
 このピークとこの鉄塔は、主尾根から張り出しているために、国道を車で北へ走っていると、神河町に入る前から見えてくる。
 それだけに、鉄塔の下には大きな展望が広がっていた。
 猪篠川の流れる細長い谷底平野の向こうに障子場が大きい。左には、桧和田山・小畑山・白岩山・高畑山、右には笠形山。笠形山のさらに南の山並みや平野は、逆光にかすんでいた。
 エゾビタキが目の前の木の枝にしばらく止まっていた。旅の途中・・・。これから南へ渡っていく。

鉄塔からの眺望  エゾビタキ

 鉄塔の下には道がなかった。背たけを越すようなススキにもぐりこんだが、トゲのある枝が隠れていて、行く手をふさいだ。
 ヒノキ林に入りこむとようやく目の前が開けた。地面には、間伐された丸太が転がっている。こんな斜面は、上るより下る方がずっと体力が失われる。
 少しでも進みやすいところを探して下ったため、予定のコースをはずしがちだった。GPSで位置を見て、コースを修正しながら林道へと下った。
山行日:2023年10月18日

スタート(播但道高架下)~防獣ゲート~林道~巡視路~送電線鉄塔~入炭山山頂(816.9m)~旧峠~779mピーク~送電線鉄塔~林道~ゴール(播但道高架下) map
 播但道の高架下に車を止め、林道、送電線巡視路を利用する。入炭山山頂手前の標高差120mは、植林の下をまっすぐに登った。
 山頂から779mピークとその下の鉄塔までは道がある。鉄塔から南東へ下る尾根に道はない。ヒノキ林に入るまではヤブ漕ぎとなる。
 地質を調査する都合でこのコースをとったが、入炭山から北東へ八幡山まで歩くと良い登山コースになる。

山頂の岩石 白亜紀後期 峰山層 普通角閃石安山岩

 入炭山の山頂に露頭はないが、周辺には峰山層の普通角閃石安山岩が分布している。暗灰色~緑灰色で、斜長石と少量の普通角閃石の斑晶をふくんでいる。
 標高350mあたりの林道では、笠形山層の流紋岩質の溶結火山礫凝灰岩が見られた。石英・斜長石・カリ長石・黒雲母の結晶片と流紋岩の岩石片をふくんでいる。石英は最大5mmで、岩石を割るとぎらぎらと光りよく目立つ。破片状の形をしているものが多い。

普通角閃石安山岩(標高650m地点)
白色は斜長石の斑晶
流紋岩質溶結火山礫凝灰岩(標高350m地点)
上の色の薄い部分は風化殻

   

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