飯森山②  (900.6m) 神河町  25000図=「生野」


高坂峠から飯森山を越えて多田坂峠へ
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越知川から見上げる飯森山西峰(2022.10.14撮影)

 昨年の秋、地質を調べながら越知川を遡った。視線を上にしたとき、手前の山並みの上に山頂部だけ姿を見せた山があった。
 このときから、越知川に沿った道を車で走るとき、いつもこの山を見上げるようになった。これが、飯森山の西峰であった。
 それから一年、岩屋から高坂峠へ登り、そこから尾根伝いに飯森山をめざした。

 岩屋公民館から越知川を渡り、集落を抜けて道を登っていく。赤や白のサザンカの花が咲いていた。振り返ると、集落を囲む山々や空の雲はすっかり晩秋の色をしていた。
 

 峠道入口から岩屋の集落を振り返る

 道を渡ったところが高坂峠へと続く峠道の入口。高坂トンネルができたため、今ここを行き来する車や人はほとんどいない。
 峠道に入ると、すぐに高坂川を渡った。足元を流れるせせらぎの音に、岩間を落ちる水の音が重なる。ヒヨドリが鋭い声で鳴いていた。

高坂川

 山から道へ石を出している人がいた。両手で抱えることができるぐらいの大きさの石。持って帰って石垣などに使うという。しばらく、石や山の話をした。
 「自分の家から東に山が見えて、そこから陽が昇る。そこに登ってみようと思っているけど何という山なんやろ。」・・・いろいろ想像してみたが、結局わからなかった。「用心しなよ。」と、見送ってくれた。

 朝早く家を出たのに、登山靴を積んでいないことに気づいて一度引き返した。スタートが遅くなって、気がせいていた。
 タカノツメが黄色に染まった三枚セットの葉を落としていた。マムシグサが赤い実をつけていた。
 高野峠の少し手前に飯森山へ続く尾根道の入り口がある。そこに達したとき、ちょうど反対方向から一人の人が下りてきた。入相山を越えてここまでやってきて、これから飯森山を経て千ヶ峰まで行くという。
 最初の露頭までは、引き離されながらも背中が見えていた。

 尾根にはよく歩きこまれた道がついていた。道には落ち葉が降り積もり、アベマキが白っぽい葉の裏を見せている。松ぼっくりもたくさん転がっている。冷たい西風が尾根を通り抜けていた。
 鉄塔の下で空を見上げた。低くて底の暗い雲が空をおおっていた。雲の厚さはまだらで、ときどき冬の弱い日差しが尾根道に射しこんだ。
 地籍図根三角点の埋められたところまで来ると、葉をすっかり落としたリョウブの向こうに飯森山が姿を現した。まだ、はるかに遠い。エナガが木の上で鳴いていた。
 

 登路より見る飯森山

 593mピークは、アカマツの混じったヒノキ林。空がいっそう暗くなってきた。地質が単調だったので、どんどん進むことができた。
 731.4mの電子三角点も、スギ・ヒノキ林の中。スギ林の向こうから、ヤマガラやコガラの声が聞こえる。
 林床にアセビがふえてきた。
 尾根道に板状に割れた岩が筍のようにいくつも飛び出していた。溶結凝灰岩に発達した板状節理による光景・・・。

 板状節理による光景

 左にスギ・ヒノキ林、右に自然林を見ながら登っていく。まだ昼前なのに、風が冷たくなってきた。細いスギの木が風にしなって、ぎーぎーと鳴った。急坂が断続的に現れた。
 標高880mを越えたあたりから、尾根にススキが現れた。ススキはまだ穂を残して風になびいている。ススキの下に生えているのは、ササやコバノイシカグマ。

 また、急な坂になった。リョウブの幹は曲がりくねって風格があった。登り切ったところが西峰の頂だった。
 ここを見上げた越知川の流れが見えないかとあたりを探ったが、眺望はヒノキにさえぎられた。

 飯森山西峰

 西峰から東へ下った。コル近くまで来ると、北に越知の谷が木の間にわずかに見えた。シカの足跡とフンがずっと続いていた。新しく出た小さく背の低いササだけが地面に広がっていた。これも、すぐにシカに食べられるだろう。
 コルから登り返すと、岩が多くなってきた。葉を落としたコナラやリョウブの木が立ち、その下にコケにおおわれた岩が散在している。岩の間は落ち葉に敷き詰められている。そんな岩庭風の風景の中を登っていくと、飯森山の山頂(東峰)に達した。
 三角点の標石はススキに埋まっていた。

飯森山山頂手前の岩庭 ススキに埋まる三角点

 山頂のアセビは、紅色の花芽を並べていた。サルトリイバラは朱色の実をつけている。ベニドウダンの枝先に輪生した葉の紅葉が美しかった。
 北東に見える千ヶ峰に陽が射し、山頂のススキが白く浮かび上がっていた。

ベニドウダンの紅葉 千ヶ峰を望む

 山頂から北東へ続く尾根を下る。820mの小さなピークは、木々が途切れて展望が広がった。
 越知の谷をへだてて、小畑山を中心とする山並みが見渡せる。小畑山の左うしろに、高畑山から白岩山への稜線がうねっていた。

展望地より小畑山周辺の山並みを望む

 尾根にツルシキミが多くなってきた。ツルシキミは、赤い実をつけながらも、枝先に広がった葉の真ん中に小さなつぼみをたくさんつけていた。
 たどりついた多田坂峠は、四方から林道が集まっていて昔の面影は残っていなかった。

 スギ林の中に、峠道がかすかに残されていた。途中で林道を横切り、さらに峠道をたどって下った。やがて、道の横に水音が聞こえ始めて、自転車を置いていた南山大師堂へ達した。

南山大師堂

山行日:2023年11月29日

岩屋公民館~高坂峠~飯森山~多田坂峠~南山大師堂 map
 岩屋の集落から高坂峠まで舗装された道がついている。高坂峠から多田坂峠までは、尾根道がついていて歩きやすい。
 多田坂峠から下った峠道は、スギ林に下にかすかに残っている。

山頂の岩石 白亜紀後期 笠形山層 溶結火山礫凝灰岩
溶結火山礫凝灰岩(飯森山)
 飯森山の山頂までは、白亜紀後期、笠形山層の溶結火山礫凝灰岩が分布している。火砕流による堆積物である。
 流紋岩質で、無色透明の石英、無色あるいは白色の長石、黒色の黒雲母・普通角閃石の結晶をふくんでいる。斜長石とカリ長石の区別は、ルーペ下ではできない。

 飯森山山頂から多田坂峠までは、流紋岩が現れ、次に安山岩が現れた。

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