蓬莱峡のバッドランド
蓬莱峡の切り立つ岩壁
 西宮市生瀬から県道51号線(有馬街道)を有馬温泉へ向かうと、太多田川の向こう岸に屏風のように切り立った岩壁が現れます。ここは、その姿が韓国の蓬莱山(金剛山の別名)に似ていることから蓬莱峡と名付けられ、裏六甲の景勝地となっています。
 白く露出する岩壁は複雑に削りこまれ、大小の岩塔がいたるところに突き出しています。これは断層による岩石の破砕と地表での風化・侵食の作用がつくり上げた地形です。
 太多田川に下りて蓬莱峡の岩壁の前に立つと、特異な景観が迫力をもって目の前に迫ってきました。
 
 

断層運動でできた六甲山
六甲山地周辺の地質図
『自然環境ウォッチング「六甲山」(2001)』より引用
 
六甲花崗岩の上に重なる段丘礫層(座頭谷)
 神戸市の後背に東西約30kmにわたって細長く横たわる六甲山。六甲山は約100万年前頃から今に続く断層運動によって隆起しました。その断層は六甲山を南北からはさみこみ、今も活断層としてずれ動き、そのたびに地震をひき起こしています。
 武庫川の支流の太多田川はそのような断層のひとつ、六甲断層による断層破砕帯を削りこんで流れています。断層破砕帯は岩石がもろく侵食されやすいので、このような直線的な谷をつくることがあるのです(断層谷)。六甲断層は、さらに東へ延びて池田を経て高槻市にいたっています。そして、この断層全体は有馬ー高槻構造線と呼ばれています。
 蓬莱峡の岩壁の中で、花崗岩の上に礫岩の地層が重なっているのが観察できるところがあります。座頭谷を歩くと、この地層がさらによく観察できます。これは、大阪層群に属している高位段丘層です。また、この段丘層の上面は「上ケ原」と呼ばれる平坦面となっていて、礫岩層の堆積当時は扇状地であったと考えられています。この地層が、ここまで高くなっていることからも六甲山が最近になって隆起したということがわかります。
 
断層破砕帯のつくり出したバッドランド
 蓬莱峡は、六甲断層の断層破砕帯にできた崩壊地形です。100万年にわたって何度も繰り返された断層運動にともなう圧砕作用が、その後の著しい風化・侵食作用を招きました。草木をよせつけずに地肌がむき出しになったこのような地形を、バッドランドと呼んでいます。
 風化は、花崗岩の節理や圧砕されたときの割れ目から進んでいきますが、その割れ目の間が、岩塔として残っています。岩壁の表面には、雨水によってV字に彫り込まれた溝、ガリーが縦に無数に走っています。

 割れ目の岩石や崩れ落ちた岩石の表面を観察すると、同じ方向に線が入り、面が磨かれたように光っているところがあります。これは、岩石がすべり動いたときにできる鏡面です。
 
 この崩壊地形は、太多田川支流の座頭谷の深部まで続いています。断層破砕帯は、このあたりでは六甲断層から南へ約1kmにも及ぶ幅をもっているのです。
座頭谷源頭部付近の光景
  
花崗岩の風化
@   A
B C
 どのような硬い岩石であっても、長い間地表付近で大気や水にさらされると、しだいに細かく砕かれたり、水などとの反応によって粘土に変わっていきます。このようなはたらきを風化作用といいます。
 花崗岩は、もともと硬い岩石で「御影石」として石材に利用されていますが、風化を受けやすい岩石でもあります。花崗岩をつくる3つの鉱物、石英と長石と黒雲母は熱による膨張率が違うので、あたためられたり冷やされたりすると鉱物がバラバラになりやすいのです。
 蓬莱峡の花崗岩は、断層が動くたびに破壊されているので、花崗岩の風化作用がよりいっそう進みやすくなっています。

@は、太多田川の河原の花崗岩です。硬く、鉱物も新鮮です。
Aは、蓬莱峡の岩壁の下に崩れ落ちた花崗岩を割ったものです。岩石の内部に割れ目が入り、かなりもろくなっています。表面を観察すると、淡紅色のカリ長石が細かく割れ、鉱物間にも割れ目が入っています。ハンマーでたたくと、簡単に割れます。
Bは、蓬莱峡の岩壁の下に崩れ落ちた別の花崗岩を割ったものです。風化が進み、指で軽くつまむだけでボロボロとくずれます。触ると指に粉がつきますが、これは斜長石やカリ長石が分解してできた粘土です。黒雲母も別の細かい鉱物に変質していて、劈開面で光りません。
Cは、花崗岩が風化してできた砂で、蓬莱峡の岩壁の下で採集したものです。淘汰が大変悪く、細かい砂に径1〜2mm程度の石英・カリ長石・斜長石の結晶片や2cm程度の岩片が含まれています。棒磁石を入れて、軽くかき回すと少量の砂鉄(磁鉄鉱)がくっつきました。
 これに対して、太多田川で採取した砂は、石英の粒が多く、粒の大きさがよくそろっています。また、ひとつひとつの粒は丸みを帯びています。これは、流水のはたらきで、粒の角がとれるのとともに淘汰されて河床に堆積したためです。
 
太多田川河床の石
 太多田川の蓬莱峡堰堤の上で、河原の石を観察しました。大きさが30cm程度までの亜円礫〜亜角礫が多く、そう遠くないところから運ばれてきたことが分かります。
 石の種類は、花崗岩が大半を占め河原全体を薄褐色に染めています。その中に、緑色をした有馬層群の凝灰岩類が少し含まれています。
 河原の石を調べると、そこから上の流域にどのような岩石が分布しているのか大体の見当がつきます。ただし、瓦やコンクリート・アスファルトなども含まれているので注意が必要です。
  1. 黒雲母花崗岩 無色透明の石英、白色の斜長石、淡紅色のカリ長石、黒色の黒雲母からできています。柱状の小さな角閃石が少量含まれています。
  2. 黒雲母花崗岩 1の花崗岩よりカリ長石の割合が多く、全体がピンク色に見えます。
  3. 珪質凝灰岩 珪質で硬い石です。緑色ですが色の濃淡にむらがあります。有馬層群の石です。
  4. 黒色頁岩 大きさ4cmの小さな石です。表面の一部に褐色に風化した凝灰岩のついていることから、有馬層群の凝灰岩に取り込まれた岩片(丹波層群)だと考えられます。
  5. 軽石凝灰岩 径1cm程度の丸い軽石を多く含んでいます。また、チャートや頁岩んどの小さな岩片も含まれています。
  6. 流紋岩質溶結凝灰岩 有馬層群の凝灰岩です。2mm程度の粒状の石英の結晶片を多く含んでいます。基質は明るい緑色をしています。 
登山記録蓬莱峡から座頭谷を遡り、東六甲の三山へ

■岩石地質■ 黒雲母花崗岩(白亜紀後期 六甲花崗岩)
■ 場 所 ■ 西宮市蓬莱峡 25000図=「宝塚」
■探訪日時■ 2004年1月10日

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