「特集 段ケ峰&千町岩塊流」へ

段ケ峰(1103.4m)・辻ケ淵トンガリ山(981.4m) 朝来市・宍粟市 25000図=「但馬新井」「神子畑」

雪の高原縦走と深雪の樹林帯

フトウガ峰(右)と段ケ峰(左)

 段ヶ峰までの雪の稜線を歩いてみたかった。それに、この時期なら、雪の上をトンガリ山(辻ケ淵トンガリ山)まで足を伸ばせるかもしれない。

 登山道は初め、土が見えていた。霜で白く縁取られた落葉が、霜柱によって浮かび上がり立体的に重なっていた。
 急な坂を上っていくと、少しずつ雪の量がふえ、やがて地面は真っ白になった。雪化粧したアカマツの並ぶ稜線が見えたところで、登山道の横に出てスノーシューをはいた。
 そこから、ウサギの足跡が交錯する新雪を上っていった。雪は十分に深いが、その下にササが空洞をつくっているところがあって、そんなところではササの中へ雪ごと踏み抜いた。
 達磨ヶ峰の肩に達してからは傾斜が緩くなった。ここから一登りして、この日最初のピーク、達磨ヶ峰に達した。
 ここで、ザックを下ろして休んだ。足元がキラキラと光っているのは、細かい氷の結晶が雪面をおおっているから。氷の結晶を雪ごと手にすくいルーペで見ると、鋭角をもった薄板状の結晶がいくつかくっつき合っていた。
 西日本が広く高気圧におおわれた一日だった。雪面にわずかに出た山頂標識の上に、空は抜けるように青かった。

達磨ケ峰へ(手前にウサギの足跡) 雪面の氷の結晶

 達磨ヶ峰を後にして、稜線を進んだ。冬枯れの雑木をすかして、前にフトウガ峰と段ヶ峰が並んで見える。フトウガ峰も段ヶ峰も、山頂の雪原が真正面から陽を浴びて白く輝いていた。
 いくつかの緩やかな高まりを超えながら、雪の上を軽快に歩いた。先行者の鐘の音だけが、遠くからカランカランと静かに聞こえた。フトウガ峰がだんだん大きくなり、やがて背後の段ヶ峰を隠した。
 最低コルから上り返して、フトウガ峰のゆるやかで大きな山頂へ向かった。風が、表面の雪を吹き払っていく。先行者の足跡が途中で消えた。もう、高い木はなくなった。雪の高原には、背の低いアセビの木が疎に群れ立っていた。
 なめらかな雪面の数ヶ所だけが大きく盛り上がっていた。稜線上に岩が取り残されたところである。傾斜を失った広大なアセビの雪面を進むと、フトウガ峰の山頂に達した。
 風をさえぎるものが何もない山頂は、雪が完全に吹き払われここだけ土が顔を出していた。先ほどから一緒になった人と周りの山を見たり、後から来た二人連れのシャッターを押してあげたりした。
 北に小さく三角形の頭を出したトンガリ山へのルートを双眼鏡で偵察し、ここを最後に出発した。

フトウガ峰 フトウガ峰山頂

 雪はまだ軽く、下りはスノーシューで駆け下りた。のぼり返して再び傾斜がなくなったところでトレールを離れ、北東のトンガリ山へ向かった。
 初めは、なだらかな広い高原のアセビを縫って進んだ。右上には、さっきまでいたフトウガ峰の山頂が見えている。高原を抜け、そこから先へ切れ落ちたところで、前方に再びトンガリ山が現れた。
 アセビを丸ごとおおったこんもりとした雪のかたまりの下に座り、昼飯にした。日が高くなり、ポカポカと暖かい。北には、但馬の山々が斜面に雪を張りつけて険しい表情で並んでいた。
 ここから、トンガリ山へは厳しかった。雪の厚く積もった深い樹林の急坂を滑るように下った。倒木が多く、それを巻いたり越えたりしなければならなかった。見通しが利かないので、コンパスと地図で位置を確認しながら進んだが、やがてそれもおっくうになってきた。
 ぐんぐん下るが、なかなか予定のコルに着かなかった。小さな谷を二つ越えて、さらに下ったところでトンガリ山山頂部の基部に達した。コースがずれたために、いくらか下りすぎたようだ。ここからは、ひたすら高い方、高い方へと上り、トンガリ山の山頂に達した。
 山頂の三角点は雪に埋まっていた。赤い小さな登頂プレートが一枚、木にかかっていた。
 トンガリ山という名にふさわしく、山頂は周りが切れ落ち高度感があった。中央分水嶺の尾根が、南東方向に緩やかに続いているのが見えた。フトウガ峰と段ケ峰は、はるか遠くに高くなってしまった。
 自分のトレールをそのまま使って元の縦走コースに戻った。トンガリ山へは、2時間半の寄り道。。きつい上り下りの中で、雪面のウサギのまん丸い糞が、少しだけ慰めてくれた。しかし、縦走コースに戻ったときには、かなり疲れてしまっていた。

辻ケ淵トンガリ山 辻ケ淵トンガリ山への樹林

 午後の稜線には、南西からときどき強い風が吹き寄せた。前から一人、スキーをはいて降りてきた。
 「山スキーですか。いいですねぇ。」
 「いやー。雪が重たい。重たい。歩くほうがよっぽど楽やー。」
 雪は、表面が解け始め、べたついて本当に重くなっていた。目の前に雄大に広がる段ヶ峰の雪面も、午後の陽射しにつややかな樹脂状の光沢を放っていた。
 14時40分、段ヶ峰の山頂に達した。山頂の一本のアカマツは、雪景色によく似合っていた。そして、長年の風雪に耐え抜いた生命力のようなものを感じさせた。あたりを見回すと、氷ノ山や鉢伏山はもうすっかり霞んで、稜線付近の雪だけがもやのなかに薄く浮かび上がっていた。

段ケ峰山頂が近づく 段ケ峰山頂

山行日:2006年1月29日
段ケ峰縦走コース登山口〜達磨ケ峰(912.7m)〜915mピーク〜最低コル〜フトウガ峰(1082m)〜辻ケ淵トンガリ山分岐(Ca.1070m)〜1064mピーク〜辻ケ淵トンガリ山(981.4m)〜1064mピーク〜辻ケ淵トンガリ山分岐(Ca.1070m)〜段ケ峰(1103.4m)〜千町峠
(千町峠からは、町道をカッセル入り口まで歩く。カッセル入口から、デポしておいた自転車で段ケ峰縦走コース登山口に戻る。)
 駐車スペースと案内図のある登山口から、段ヶ峰縦走コースを歩いた。達磨ケ峰を超え、フトウガ峰を過ぎて上り返したCa.1070mの高みで縦走コースを離れ、北東のトンガリ山をめざした。
 トンガリ山へは、中央分水嶺を歩くことになるが、地形がやや複雑で見通しも悪い。少し遠回りして、トンガリ山山頂に着いた。同じ道をたどって縦走コースへ戻り、そこから段ヶ峰山頂に達した。
 千町峠へ下ったのは失敗だった。峠まではまだよかったが、峠からの道は延々と長かった。林道の雪は重くスノーシューがべったりとして上がらない。しかたなくスノーシューをはずして、つぼ足で雪の道を歩いた。薄明も終わりかけた5時48分に、ようやく登山口の車に着いた。 
■山頂の岩石■ 段ケ峰→流紋岩質多結晶溶結凝灰岩 後期白亜紀

 この山域は、後期白亜紀の溶結凝灰岩からできている。今回は、積雪のために縦走コースでは岩石の観察はできなかったが、千町峠から下った道沿いには好露頭が連続して現れた。
 ここに見られる岩石は、灰色の流紋岩質溶結凝灰岩である。石英・長石の結晶片を多く含み、黒雲母の結晶片や岩片も含まれている。強く溶結しているため、非常に硬い。岩石は新鮮であるが、栃原鉱山の近くでは明礬化作用が進んでいるために褐色をしていた。

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